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Episode3 天使轟臨 ~晴れ時々刃 空に舞う風~

Wrestle Angels PBeM

Episode1 天使轟臨 ~Angels Flying in the Supercell~

〔ストーリー〕(文:STR様)

この宇宙(そら)に、いったいいくつの星々が生まれ、散っていったのだろう?

この惑星(ほし)に、いったいいくつの生命が生まれ、そして地に空に還っていったのだろう?

それを知るすべは、誰にもありはしない。

西暦20X1年、秋……

天と地の理(ことわり)と同じく、人の作り出した存在にも、いずれ終わりは訪れる。

プロレス団体も、その摂理から逃れることは出来ない。

されどその終わりは、あるいは始まりに過ぎないのかも知れないのだ……


◇◆◇ 1 ◇◆◇


▼日本 東京都新宿区 WARS道場


従来、軍団抗争の類とは無縁であった【WARS】だが、《柳生 美冬》率いる【柳生衆】の決起以来、その勢力図は一変している。
ざっと列記すれば、以下のようになろう。

<銀龍砲>
《サンダー龍子》
《フレイア鏡》

<柳生衆>
《柳生 美冬》
《オーガ朝比奈》(フリー)
《ダイナマイト・リン》(フリー)
《RIKKA》(?)
《IDUNA》(?)

<バーニングペガサスwithA>
《真田 美幸》
《藤原 和美》
《AGEHA》(激闘龍)

<その他>
《石川 涼美》
《永沢 舞》
《中江 里奈》
《野村 つばさ》
〈上原 凪〉
〈ティーゲル武神(武神 玲蘭)〉
《渡辺 智美》(激闘龍)
《栗浜 亜魅》(激闘龍)
〈MARIPOSA(結城 零)〉(激闘龍)


WARSとしては、きわめて特異な状態である。
この軍団中、勢い・人数ともに最大と言えるのが、先のシリーズで猛威を振るった【柳生衆】である。
着々とメンバーを増加させており、更なる戦力増強も噂されている。
それに継ぐ勢力としては、真田・藤原の熱血正義コンビにAGEHAが加担した『バーニングペガサスwithA』。
一方、欠場から復帰したサンダー龍子が、よりによって“仇敵”フレイア鏡と組んだ『銀龍砲』は、存在感において他の追随を許さぬが、内外に少なからぬ波紋を広げている。

ここで、微妙な立ち位置となっているのは石川である。
龍子のパートナーの座を、新参の鏡に奪われたかっこうなのであるから。
不平不満を口に出す彼女ではないが、冴えない雰囲気は隠しようもない。

「龍子が決めたことだし……私は気にしていないわよ~~」

と後輩たちの前では平静を保っているが、その心中や、いかに。

「これで、石川さんが柳生衆に寝返っちゃったら面白いよね~~」
「……他人事だと思って、お気楽な」

外様である【激闘龍】の渡辺や栗浜たちから見ても、穏やかな雲行きとは思われない。

「そう? だって、その方がメロドラマって感じでよくない~?」
「ま、それは確かですけれど」
「あたしたちもどっかに属した方が面白いかな~?」
「貴方は例のアレの方が忙しいでしょうに」
「あ~、まぁ、そうなんだけどね。でも、アミアミは?」
「……私は誰かと群れることなど好みません。そろそろ、手ごろな闇の使い魔たちを召喚する予定です。フフフ……」
「そういうの好きだねぇ~。また零ちゃんがイケニエにされるのかぁ」
「フフフ……彼女には既に“薄明の祭壇”になって貰うための“聖人の儀式”を施しています。いつでも、その役目を果たしてくれることでしょう」

結城零の運命は、風前の灯であるらしかった。

それはさておき、

「――上原さん、大丈夫かな」
「…………」

両者の口が重くなった。
彼女たちの恩師ながら、今は袂を分かった【太平洋女子プロレス】の《ブレード上原》。
上原が練習中のケガで入院したことは周知の事実である。
若手レスラーの技を受け切れずに、負傷したというが……

「上原さんが、そんなヘマするわけないでしょっ!」
「……考えにくいことですね」

或いは、それだけコンディションが悪かったのかも知れない。
太平洋女子が金銭トラブルに巻き込まれ、少なからぬ損害を受けたという噂は耳に入っている。
幾多のピンチを乗り切ってきた太平洋女子だが、今度こそアウトであろう――などという声もある。

(あるいは、上原さんにとっては、その方がいいのかも知れない。……)

栗浜は、そう思わないでもない。
不世出のルチャドーラであるブレード上原だが、経営者・上原今日子としては――

(……優しすぎる)

自分を必要としてくれる人間、頼ってくれる人間を、決して見捨てられない。
それは人間としては美徳であるが、時にクールさも要求される立場の人間にとっては、致命的にもなりうる要素だ。

(今更、詮無いことだけれど)

かつて栗浜らは、これ以上、上原の負担となりたくない――という思いから、彼女の元を離れた。

(主に頼りきりの使い魔など、まっぴら。……)

だからといって、上原の元に残った人間を批判する気もない。
心も身体も、一人につき一つしか存在しないもの。
どう判断し、どう行動するかは、人それぞれなのだから。


◇◆◇ 2 ◇◆◇


▼日本 東京都新宿区 WARS道場


そんな抗争劇の影響もあり、WARS道場は、普段以上に殺伐としたムードが漂っている。
当然、柳生衆のメンバーは顔を出していない。

〈上原 凪〉は、いわゆるWARSスタイルにプラスして、基本に忠実に――をモットーに練習している。
以前の《中江 里奈》の忠告を受け止め、無茶することなく、熱心にトレーニングに励んでいる。

その上で、龍子からの言葉から、自分が自分であるためには何が必要なのかを考えた結果……
龍子やブレード上原の名が、心のどこかで、重荷(涼美の言葉もあながち嘘でなく)だったことを受け入れた。

デビュー戦での一人歩きをしたキャッチコピー(上原ゲノムと龍子ゲノム奇跡の融合!)を本当のものにすればいい。
茨の道どころか、修羅の道になるかもしれないけれど、憧れを憧れのままにしていて何がプロレスラーか。

今、自分に足りないのは立体的な攻めであろう。
WARSにはルチャドーラはいない。
(激闘龍のメンバーは、凪からは含む所はないのだが、彼女たちの方から避けられている気がするので、あまり気が進まない)

(今日子ねぇねぇ……っ)

ブレード上原――
稀代のルチャドーラにして、凪の従姉である。
そんな彼女は、今、窮地に立っていた。
資金繰りに失敗、太平洋女子は火の車。
加えて上原本人は、練習中にケガをするという不運に見舞われ、入院中。
太平洋女子の選手たちは、他団体に出撃して外貨を稼ぐのに必死という状態。
心配なのは間違いなかったが、さりとて気軽に見舞いに行けるわけでもない。
幸い、近々中部地方への巡業がある。
見舞いはその時に……そして、その時までに、少しでも成長しておきたかった。

《野村 つばさ》はなるほどスピードに定評があるが、最近〈MARIPOSA〉と組んでの練習が多く、マンツーマンとはいかない。
その点、新進気鋭の《永沢 舞》には風の匂いが感じられた。
彼女の技量を学び盗み取るべく、頭を下げに永沢の下に向かったところ、

「うん、いいよ~、オッケー! そしてオッケー!!」

永沢も凪のスタミナやド根性には一目置いていたこともあり、

「ナギナギって、ワンちゃんっぽいし!」
「わ、ワンちゃん……ですか」

凪に忠犬もしくは子犬のような雰囲気を感じたのであろうか。
一緒に練習に励み、互いに効果のある練習となった。
この結果、凪のローリングソバットは切れ味を増し、同時に、新必殺技のイメージも固まっていったのである。





そんなおり、凪は初の他団体参戦を果たした。


▼日本 東京都千代田区外神田 神田明神


神田明神――正式名称は神田神社。
神田祭で知られる著名な神社であるが、秋葉原に近いという土地柄、そちら系の話題も少なくない。
このたび行われるイベントは、さて、その範疇に入るものかどうか。

『神田明神おとめ祭り~奉納女子プロレス~』

神社の境内に設置された特設リングで、奉納プロレスをおこなうというこのイベント。
【東京女子プロレス】の《メイデン桜崎》が中心になって準備を進めてきた大会である。
そのカードに、WARSの試合も含まれているのである。


<第1試合・シングルマッチ 15分一本勝負>

〈上原 凪〉(WARS)
 VS
〈DJ‐ナコ〉(東京女子プロレス)


DJ‐ナコこと〈高橋 加奈子〉。
DJスタイル? のコスチュームにHIPHOPを流しながら登場、

「ヘイヨー、ヘイヨー! チェケラッチョ!!」

とラップっぽいことをヤケクソぎみに口走りながら、クチャクチャとガムを噛んでいる。

(……っ、こんなふざけた相手に、負けられない!)

得意のパワーレスリングで押し込んでいく。
尊敬すべき憧れの龍子をモデルに、耐えて耐えての反撃!
……というのが彼女の基本スタイルだが、この相手のように変則的なタイプの場合、力を利用されてしまう。

「どりゃああっ!!」
「おおっと!」
「あ、あがぁ!?」

突進をかわされ、顔をかきむしられたり。
それもあって、ブレード上原スタイルを導入、パワー系でありながら立体的な攻撃スタイルを確立しようと考えている。
パワーボムやのど輪落としを繋ぎに用い、フィニッシュへと畳み掛けていく――のが、理想。
しかしここでは、気づけば相手のペースに巻き込まれ、最後はスクールガール(横入り式エビ固め)で丸め込まれて苦杯を喫してしまった。

 ×凪 vs DJ○(8分11秒:スクールガール)

まだまだ、“凪スタイル”の完成には程遠いようだった。



そして、もう一方のWARS関係の試合は。


<セミファイナル・タッグマッチ 30分一本勝負>

《フレイア鏡》(WARS) & 〈ティーゲル武神〉(WARS)
 VS
《オーガ朝比奈》(フリー・柳生衆) & 《IDUNA》(フリー? 柳生衆)


かつてヒール軍団の一員であったが、WARSに電撃入団を果たし、サンダー龍子と共闘を宣言した鏡。
それはすなわち、朝比奈ら【柳生衆】との対立を意味している。
言わば、その番外戦であった。

まず入場してきたのは長身の無骨な少女、凪の同期である〈ティーゲル武神〉。
先の『ニューフェイスカップトーナメント』では一回戦負けという不覚を取ったが、体格・素質共に将来を嘱目される、WARS次代のビッグシングである。
続いて、ひときわ大きな歓声と写メの雨の中姿を現したのは、フレイア鏡――
そして、サンダー龍子。
シンプルなジャージ姿でありながら、その貫禄は流石にただならぬものがある。
続いてオーガ朝比奈が、柳生をセコンドにして入場。
鏡、龍子と視殺戦を繰り広げる二人。
マイクを取った朝比奈が、意外な言葉を口にする。

「悪ィな。IDUNAの奴が、まだ来てねェんだ」
「おやおや。……だったら、そちらのお嬢さんと組んだらいかが?」
「ヘッ、うちの大将が出るまでもねェよ」

こんなこともあろうかと、手ごろなパートナーを用意してある、という朝比奈。

「出てきな、可愛いコちゃん――――」

妖しげなテーマ曲と共に姿を見せたのは、

「はぁ~~い♪ 〈MOMOKA〉だよ~~、よろしくね~~~♪」

“闇堕ちティンカー・ベル”〈MOMOKA〉……その、初登場であった。

鏡&武神はもとより、セコンドの龍子にもちょっかいを出すなどハッスル。
小ずるいインサイドワークを披露、勝利に貢献したのである。

 ○朝比奈 vs 鏡×(13分59秒:スクラップバスター)

凪にしてみれば、また同世代のライバルが出現したわけであった。




▼日本 東京都新宿区 WARS道場


WARSでは、月一程度で道場を開放、観客を入れて実戦形式のスパーを疲労する、いわゆる道場マッチが行われている。
ふだんWARS道場には顔を出さないフリーランス組も、こういう場合は足を運ぶことになる。
凪たちがイス並べなどの準備に追われていると、入り口に気弱そうな少女が現れた。
一見分からなかったが、よく見れば、

(! MOMOKA……っ)

柳生衆の一員である彼女の、素の姿であった。

「………………っ」

武神玲蘭が強い視線を向けたのは道理であろう(彼女が『ニューフェイスカップトーナメント』の一回戦で敗れたのが、他ならない彼女であった)。

「柳生衆の手下が、何の用ッすか!」
「悪に魂を売った極悪レスラーの言葉に、耳は貸しません!」

真田や藤原が詰め寄る。

「ここはWARSの道場ですっ。関係ない人は出て行って下さい!」

凪も肩を小突き、追い出そうとした。

「あ、あの……っ、わた、し……っ」

リング上の小憎らしさからは想像も出来ない、弱々しさ。
ちょっと気がとがめたが、どうあれ、この女は……敵なのだ。

「――――弱い者いじめは、感心しないわね」
「…………っ」

聞き覚えのある声に、視線が集まる。

「……っ、か、鏡さん……」
「そんな可愛らしい女の子ひとりに、大声を上げることはないでしょう?
 それとも――そんなことを、サンダー龍子に教わったのかしら」
「…………ッッ」

唇を噛んで、引き下がる凪たち。

「っ、あの、鏡さん……っ」
「さ。……お引取り願おうかしら」
「…………っ」
「ここにいていいのは――鍛え上げられた、強い肉体と」

剛い心を持つ者だけよ、と冷笑するフレイア鏡。
悔しいが、役者が違う――と感じざるをえない凪だった……



さて、道場マッチ。
凪は玲蘭と組んで、MOMOKA&MARIPOSAの外敵コンビと激突した。


 〈ティーゲル武神〉 & 〈上原 凪〉
 VS
 〈MARIPOSA〉 & 〈MOMOKA〉


開始前、MOMOKAはマイクを取るや凪を指差し、

「サンダー龍子とブレード上原の融合~?
 龍子の筋肉で出来た脳みそとぉ、上原のシケた経営能力を受け継いでるんじゃないのぉ~~?」
「…………ッ!!」

とやって、凪や武神はもとより、詰め掛けたファンからも大ブーイングを買った。
試合は激怒したWARS軍が猛攻を仕掛け、MARIもろともMOMOKAをボコボコにしての完勝。

 ○武神 vs MOMO×(10分くらい:パワーボム)

「これぐらいで――勝ったと――思わないでよね……ッッ!!」

口いっぱいに血と唾液を溜めながらも、気丈にアピールして見せたのがせめてもの意地。
若手同士の凄絶なケンカマッチに、場内は大いに盛り上がった……





▼日本 東京都新宿区 WARS事務所


そんなある日。
凪は、石川に呼び出された。

「今度、中部地方で興行を打つ予定なんだけど……」

地元のプロモーターなどとの打ち合わせのため、出張するのだという。

「凪ちゃん、付いてきてくれないかしら」
「え……っ?」

日々練習に励みたい凪としては、そうした役目は気が乗らなかったが……

「愛知に行ったら、自由にしてていいから。ね?」
「あ……」

石川の気遣いを悟る凪。
愛知出張は事実なのであろうが、それに伴って、凪に上原の見舞いをさせようという腹なのであろう。

「……っ、ありがとう、ございます……っ」
「ん? ふふ、なんのことかしら~~」

石川涼美は、穏やかに微笑んだ……





▼日本 愛知県名古屋市 某病院


「どうにも大げさなのさ。……すぐにでも、リングに戻りたいんだけどね」

実際、ブレード上原――上原今日子は、ごく元気そうに見えた。
過労という声もあったが、今は顔色も悪くない。

「っ、そうなんだ。……」

今日子ねぇねぇの様子に、ひとまずは安堵した凪であったが……
彼女の境遇を考えると、なかなか、うまい言葉が出てこない。
辛うじて、プロレスラーとして一歩を踏み出している凪だが、団体経営の苦難となると、想像すら出来ない。

「なんだ、冴えない顔だな。WARSはどうだ?」
「あ、うん――」

大変ではあるけれど、充実した日々を送っているといっていい。

「そうか。……龍子のことだ。ああ見えて、色々と考えているよ、彼女は」
「……っ、でも……」

鏡との抗争はさておき、そこから、銀龍砲の結成――などの流れは、どうにも納得しかねるものだった。

「今日子ねぇねぇ……」
「……ん?」
「タッグパートナーって、そんな、軽いものなの?」

彼女にこんな話をするのは、はばかられたが……
しかし、いったん口にすると、止められるものではなかった。

「龍涼砲は、ただのタッグじゃないんだから……っ」

龍子と石川の、龍涼砲。
それは絶対的な存在であり、かつ、WARSの絆そのもの――
凪は、そう固く信じている。

「私は、龍涼砲を、取り戻したい……っ」
「なるほど。……」

今日子にしても、タッグに関しては一家言ある。
かつては《パンサー理沙子》とタッグを組み、一時代を築いた。
その後決別、《テディキャット堀》や《アルコ・イリス》らのパートナーと実績を重ねてきている。

(ここで、“自分が龍子や石川のパートナーになる”と言い出さない所が、凪らしい。……)

その点、まだまだ凪はファン気質が抜けていない、半人前のレスラーと言える。
だが、誰しも最初から一人前ではない。
間違ったり傷ついたりしながら、わずかな歩みでも……本物に、近づいていくしかないのだ。

「最初に断っておくけれど――」

他団体のやり方に口を挟む気はない、と今日子は釘を刺した。

「まして今の私に、そんな権利はないだろうしね」

とは、笑えない冗談であった。

「だから、これはアドバイスじゃない」

ただの四方山話だ、と断ってから、彼女は続ける。

「龍子の真意は分からない。もちろん、鏡や石川の真意もね。ただ……」

何かを変えるためには、時に大きな痛みを伴うもの。
それを怠れば、現状維持は出来たとしても……その後の、発展はない。

「龍涼砲は、確かに名タッグだろう。しかし」

更なる上を目指すためには、変化も――必要かもしれない。

「……っ、でも、そんなっ!」

思わず感情を露にする凪。
その様子に、今日子は微笑を浮かべ、

「そう。変化は、当人たちだけの問題じゃない。周りも、またしかりだ」

一つの小石が、大きな波紋を生み出すこともある。

(あるいはそれも……)

龍子たちにとっては計算ずくかも知れない、と思った今日子だが、そこまでは口にしない。

「凪。プロレスに、“正しい”も“正しくない”もないんだよ」
「――――っ」
「あるとすれば、“自分にとって”正しいか、どうか。それだけだ」

龍子と似たようなことを言う今日子。

「だから、凪の考える通りにすればいいさ」
「……っ、うん……っ。ありがとう、今日子ねぇねぇっ」
「いいさ」

上原今日子は、従妹に優しい笑みを向けた。

その、屈託のない笑顔を。

頭を撫でてくれた、手のひらの温かさを。

上原凪は、その後もずっと、忘れることがなかった……





その夜――
名古屋市のビジネスホテルで、凪は石川涼美と対峙していた。

「今回ばかりは、龍子姉様が間違っていると思います!! 涼美さんもそう思いませんか?」

龍子がリハビリ中に言った『あたしのやっていること、それが即ちプロレスだ』という言葉がひよっこレスラー凪に二の足を踏ませていた。
だからこそ、彼女の最大の理解者であり、WARSのもう一つの柱でもある涼美に胸の内をさらけ出すことにしたのだ。

「どうして、鏡さんとタッグなんですか!? 私には理解できません!!」

凪にしてみれば、涼美の敵討ちに立ったはずの龍子が鏡と組む愚行をとり、涼美を見捨てたとしか映っていなかった。

「凪ちゃんは、鏡さんが嫌いなの?」
「……っ、そういう、わけじゃっ」

決して、好きなわけではないけれども。
鏡は龍子と五分の闘いができる実力者であり、尊敬すべき存在ではある。
そういう次元でなく、銀龍砲を認めたくないのだ。
凪の目的は、つまるところ銀龍砲の解散。

「……銀龍砲に勝って、解散させようということ?」
「っ、いえ……」

たとえば石川とタッグを組んで銀龍砲を撃破、解散に追い込む……
一見手っ取り早そうだが、どだい無理な相談であろう。
まずもって、今の凪では、役者が何枚も違いすぎる。
そういう現状認識はあった。
そこで彼女が思い至ったのは、

――銀龍砲の目的を失くせば、その存在は無意味となる。

「涼美さん! 私達で柳生衆を消滅させましょう!!」
「え、えっ?」
「プロだから金を取る試合をというのは分かっているつもりです……けどっ、自分の守りたいもの、誇れるものを犠牲にしてまで……なんて、私には納得出来ません!」
「………………」
「わ、私だってプロレスラーです! 叫んでいるだけで何かが変わるなんて思っていません! 涼美さん、一緒に立ち上がりませんかっ?」

涼美を旗印に、龍子達より先に柳生衆を殲滅する。
そうなれば、打倒・柳生衆のための野合に過ぎぬ銀龍砲は、解体せざるをえないであろう……
普段の凪であれば、まず口にしないようなことであったが、それだけ龍子と石川を慕っているからこその必死な行動であった。

「……たとえ、1人になっても……私は銀龍砲は認めたくありません……我が侭かもしれません。
 涼美さんにも、龍子姉様にも嫌……わ、れ……たって……構い……ま……せ……ん」
「…………」

無言で聞いていた石川だったが、ふと大きく息をつき、背を向けた。

「本当に……ダメね、私は……」
「……っ、涼美さん?」
「同じようなことをね……玲蘭ちゃんにも、言われたの」
「え…………っ」

石川は既に、武神玲蘭から“決起”をうながされていたのである。

「彼女は、鏡さんと柳生衆が裏で繋がっているかも知れない――と危惧していたけれど」
「……っ」

鏡が龍子を裏切って柳生衆に加担――
あるいは朝比奈と示し合わせ、龍子と柳生をまとめて潰し、WARSを制圧する――
そんな懸念すら、玲蘭からは訴えられたと言う。

「それもこれも、私が不甲斐ないせいね。……若い子たちに、心配ばかりかけて」
「っ、涼美さん……」

振り返った石川は、いつになく険しい表情。

「――凪ちゃん」
「はっ、はいっ!!」
「龍子には、龍子の思惑があると思うわ。……でも」

このまま、傍観は出来ない。
WARSのため、凪や玲蘭の想いのため……そして何より、

「私、自身のために――」

今こそ、立ち上がる。

「手伝ってくれる? 凪ちゃん」
「は、はいっ! もちろんです……っ!」

ガッチリと、手を握り合うふたり。
こうして……
石川軍(仮)の、決起が始まったのである――





▼日本 東京都新宿区 WARS寮


帰京した石川と凪は、まず玲蘭を説いた。
玲蘭の思惑は、ヒール軍団の排除であるので――そこには鏡も含まれている――行動を共にすることにした。
(もっとも、表立っての軍団結成は彼女の本意ではなかった。小異を捨てて大同についたのである)
更に、凪の誘いで《永沢 舞》が、玲蘭の説得で《中江 里奈》が石川軍(仮)入りを決意した。
打倒・柳生衆、そして鏡の撃破を掲げたこのユニットは、WARSの勢力図を更に混沌とさせることになったのである。



石川軍(仮)入りした凪は、入場曲・コスチュームを一新。
曲は、これまで使っていたWARSのテーマから、『HE∀ting Sφul』に変更。
コスチュームは、無骨でシンプルなワンピース系から、ブレード上原やゲームキャラをイメージしたものに変更。
色は白をベースに、沖縄の海をイメージしたエメラルドグリーンが要所要所にあしらわれている。
――デビュー祝いに、ブレード上原から贈られていたものであった。

「行きましょう、永沢さん、玲蘭さん!」
「うんっ、これ以上、WARSを好きにはさせないよっ!」
「…………うむ」

石川軍(仮)の初陣では、永沢・玲蘭と組んで出撃――


▼日本 静岡県沼津市 キラホールぬまづ


<セミ前 45分一本勝負>

〔柳生衆〕
 《ダイナマイト・リン》&《RIKKA》&《MOMOKA》
 VS
〔石川軍(仮)〕
 《永沢 舞》&〈ティーゲル武神〉&〈上原 凪〉


MOMOKAを片逆エビ固めでギブアップ寸前まで追い込んだ凪であったが、最後はRIKKAに仕留められ、初陣は飾れず――

 ○RIKKA vs 凪×(19分7秒:STO)

敗れたものの、感情剥き出しで闘うファイトスタイルは、観客からも大きな支持を集めることになっていくのである。



そして、シリーズ最終戦――


▼日本 愛知県名古屋市 マリンメッセ名古屋


セミセミの第5試合にて、柳生衆vs石川軍(仮)の対抗戦が行われた。


<第5試合 8人タッグマッチ 30分一本勝負>

〔柳生衆〕
 《オーガ朝比奈》&《ダイナマイト・リン》&《RIKKA》&《IDUNA》
 VS
〔石川軍(仮)〕
 《中江 里奈》&《永沢 舞》&〈ティーゲル武神〉&〈上原 凪〉


ちなみに、これに先んじたカードで、朝比奈とD・リンは、設立されたばかりの『WARS認定タッグ王座』の初代王者として君臨している。
(対戦相手は真田&藤原のコンビ)

柳生衆打倒を掲げて決起し、武神と凪が中心となった石川軍(仮)との衝突。

「行きましょう、玲蘭さん!!」
「承知……ッ」

大将・石川を欠いた状態での闘いは、困難を極めた。
MOMOKAの小ずるい乱入もあり、幾度となくニア・フォールに追い込まれる。
が、終盤、凪の新技・ビエント・ブランコ(和名:白い嵐)(ウルトラ・ウラカン・ラナ)がDリンに炸裂、その間に、玲蘭がIDUNAを捕らえ、見事キツネ狩り――

 ○武神 vs IDUNA×(22分7秒:脇固め)

劣勢から、大逆転でタップを奪っての金星である。

「やっ、やりましたっ、玲蘭さん!」
「……あぁ……っ」

WARSのリングに、彼女たちが大きな爪痕を刻んだ瞬間であった。



そしてセミファイナルでは、鏡と石川の一騎討ち。
だが、ただのシングルマッチではない。


<第6試合 ルーザー・リーブ・WARSマッチ 時間無制限一本勝負>

 《フレイア鏡》
 VS
 《石川 涼美》


石川の挑戦を受けた鏡が掲げた、試合形式。
それは、敗者がWARSから去らねばならぬという、決着戦であった。
流石に逡巡した石川であったが、それだけの覚悟を負わねば勝てない――という決意のもと、これを受諾。
運命を賭けた一戦に挑んだのである。

「涼美さん……っ! 信じてますっ!!」
「えぇ――これで、決着をつけるわ」

大歓声の中、凪たちをセコンドにつけ、並々ならぬ意気込みで登場した石川。
一方、単騎で入場した鏡には、WARSファンから強烈なブーイングが浴びせられる。
人気者の鏡とはいえ、石川のクビがかかっているとあっては、これは当然の反応であろう。

(フレイア、鏡……!)

凪は、以前の彼女とのやりとりを思い出す――



石川軍(仮)結成間もないある日、会場入りしようとする鏡を待ち伏せた。
闇討ちなどではなく、正々堂々、正面から自分の意志を伝えたのである。

『鏡さん、プロレスラーとして貴女を尊敬していますが、龍子姉――龍子さんとのタッグだけは認めたくありません!』

認められないのではなく、認めたくない。
それが、凪の心情を表していると言えた。

『なるほどね』

凪の剣幕にも、鏡は優艶な微笑を絶やさず、

『それで、私にどうして欲しいのかしら? 身を引いて欲しいとでも?』
『……っ、い、いえ……っ』
『フフッ……面白いわね、貴方は。流石に、龍子のガッツと、上原さんの粘り強さの継承者――』
『…………っ』

彼女の口から、“龍子”という言葉が出るのは、心地いいものではなかった。

『安心なさい。近々――ケリはつくから』
『え……っ?』
『銀龍砲が残るか、貴方の大好きな龍涼砲が、復活するのか――』

すぐに、明らかになる……



あの時は、意味が分からなかったが。
その後、鏡がブチ上げた試合形式を知って、腑に落ちた。

(……っ、確かに、この形式なら……)

残るのは龍涼砲か銀龍砲、いずれかのみ。
正直、普通に闘えば、鏡の方が一枚上手であろう。
だが、凪は思う――
石川と鏡とでは、背負っているものが違う。

(そう……この試合に懸ける、思いの強さなら……)

石川が、遥かに上回っている。

だからこそ、勝てる。

石川涼美は――

勝てるのだ。


 ○鏡 vs 石川×(9分47秒:卍固め)


「――――ッ」

決着のゴングに、凪はもとより、中江、永沢らも言葉を失っていた。

「…………」

玲蘭も黙然と唇を噛んでいる。
これが、反則殺法満載のダーティな決着ならまだしも……
ぐうの音も出ないほどの、正統派のレスリングでの決着。

しばし茫然としていた石川であったが、じきに我に返るや、四方に深々と頭を下げた。
その意図は――自明であろう。

――石川、やめるなーー!!
――涼美さーーん!! ダメだーー!!
――WARSには、アンタが必要なんだ!!

客席からは、悲痛な声が上がる。

『石川さん――』

マイクを取った鏡に、割れんばかりのブーイングが上がる。

『この、オーディエンスの声が聞こえるでしょう?
 貴方は――WARSに、なくてはならない人』
「……っ、でも、私は……」
『勝ち負けは時の運――たとえ敗れ、屈辱にまみれても、何度でも立ち上がる。
 それがプロレスの凄み……WARSの、流儀でしょう?』
「……っ」
『共に、WARSのために闘いましょう――涼美さん』

鏡の差し伸べた手を、しばしためらうも、ガッチリと握る石川。
両者の握手に、万雷の拍手と歓声が包む。

もっとも、凪たちは、安堵と同時に、複雑な気持ちを抱いたが……



そして、メインのタイトルマッチ。


<メインイベント WARS認定無差別級王座タイトルマッチ 60分一本勝負>

 〔王者〕
 《柳生 美冬》

 VS

 〔挑戦者〕
 《サンダー龍子》


リングアウト、無し。
反則裁定、無し。
3カウント、ギブアップのみで決着する、完全決着戦。

セコンド同士も激しくやりあう大乱戦となった。
最後は龍子、病み上がりの右腕を振り抜いて柳生を沈めた――

 ×柳生 vs 龍子○(19分21秒:ラリアット)

柳生衆をリング周辺から撃退しての決着。
ダメージの深い龍子は鏡に肩を借りて先に退場し、最後の締めは、石川にゆだねられた。

『えぇと、いろいろありましたが――』

『WARSは、これからも、真っ直ぐに、突き進みます!』

これにてひとまず、ハッピーエンド――
と、思われた。

だが、突然、事態は暗転する。

「……うぐっ!?」

突如、イスや竹刀を手にした一団が出現、石川や石川軍(仮)を袋叩きにしたのだ。
それは、柳生衆ではなく――――

『毎度!! 【ジャッジメント・セブン】のお出ましや!!』

イスを手に吼えたのは、《Judgment-NARU》――
新女を中心に暴れるヒールユニット、【ジャッジメント・セブン】であった。

「ッッ!! 何を――あぐううっ!?」
「………………」

《Judgment-ZERO》の見えざる拳が凪の顔面にクリーンヒット、鼻血を撒き散らす。
他にも、気力十分の《斉藤 彰子》や《神田 幸子》《Judgment-ONE》たちに凶器を手に襲われては、つい先ほどまで柳生衆と乱闘していた石川たちに勝機はなかった。
たちまち叩き伏せられ、ことごとく戦闘不能に追いやられる。
中でも石川に至っては、リング上に据え付けられたテーブルの上に乗せられ――更に、その上にイスを重ねられる。

『石川はん、アンタは、そうやなぁ、嫉妬――とは言わんとこ。さしづめ、“強欲”やな!』
「――――――ッ!!」

そのまま、石川の上に、次々とダイブしていくJ7軍。

「……っ、や、やめ……っ」

鼻血まみれになりながらも、立ち上がろうとする凪――しかし、意思とは裏腹に、体が動かない。
とどめとばかりに、イスの上へのハイジャック式のパワーボム一閃――

「………………」

石川、もはやピクリとも動かず。
場内、あまりの惨烈さに声もない。

『貴様ら――やってくれたな!』

バルコニーに姿を現した龍子がマイクで一喝も、時既に遅し――

『今日はこれくらいにしとくわ、サンダーの大将! 文句あるんやったら、いつでも受け付けてるで。
 あ、闇討ちとかはカンベンな~~。うちらみたいに、ちゃ~んとリングの上で頼むわ。
 たとえば、年末の<EXトライエンジェル・サバイバー>とかな~~~っ』

ちゃっかり宣伝までして、意気揚々と引き上げていくJ7軍。

『――ジャッジメントだか何だか知らないが、高くつくよッ、この貸しはッ!!』

『いいさ、ケリはつけてやる! あたしと――――明日香とでな!!』

そのまま、退場する2人。

「……りゅ、龍子……ね、ぇ……さ……」

凪たちにも、石川にすら……一瞥もせず去っていく龍子。

「…………」

鏡が、自分に視線を送った気がしたのは、錯覚であったのだろうか。

――――ケリは、ついたでしょう?

と、妖しく微笑んだように思えたのは、凪の思い過ごしであったのか?
凪の意識は、出血のため混濁、薄れていった……



――その後。
J7に制裁された石川涼美は、無期限での欠場を余儀なくされた。
旗頭を失った石川軍(仮)は、どうなるのか?
そして、柳生衆の動向は?
何より、J7への報復は??

さまざまな情勢が入り混じる中、更なる衝撃が、凪を襲った。

――上原今日子が、路上で何者かに闇討ちされ、意識不明の重態。

プロレスの範疇を超えた数多の試練が、上原凪に怒涛のごとく襲い掛かっていた――

tag : レッスルエンジェルスPBeM ブレード上原 上原凪

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誰も読んでないと思うけど、恋姫話は現在↑のところで書いてます。無謀もいいとこですが、、まあいけるとこまで行くぜって感じで。

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