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終章

『エンジェルカップ』受賞セレモニーの様子はこちら

「本当によくやった……あの娘達は私が思っていたよりもずっと強くずっと美しかった(……そう私が持ち得なかった天使の羽を持っている……)」
 閉会式を会場の片隅で見守る上原が呟く。
 視線の先には、涙を堪えている娘もいれば笑顔の娘もいる。
「……籠の中の鳥は飛ぶことを知っていても飛べるとは限らない」
 上原はある決断を下すことにした。それは理解されないかもしれないがとても重要なことだと信じていた。


――1週間後

 エンジェルカップの翌日に上原から各自の体調を戻す為に約1週間の完全休養日が発表され、今日がその休み明け初日の練習日だった。
 道場に顔を出す順番は、龍子、上原、越後、楠木、富沢に遅れて金井、永原がいつものことだった。
「おっはよーございまーすっ!!」
 いつも通り時間ギリギリに永原が元気よく道場に顔を出したが、そこにはいつもの活気はなかった。
「あれ? 寮長、どうしたんです? 練習もしないで……あーっ! もしかして寝坊したんでしょ? いーけないんだいけないんだ♪」
 永原がいつも遅刻を怒られていたので、練習もしないでいる越後を見て鬼の首を取ったようにはしゃぐ。普段であれば、越後は直ぐに活をいれて永原を叱り飛ばす所だが、どこかその目がうつろだった。
 永原も流石におかしいと気付くと、道場の様子が明らかにおかしい。龍子が奥のベンチに座って俯いており、反対側の壁には楠木が座り込んでいた。
 何よりも、絶対にあるべきはずのものがないのだ。

 そう、リングがない……。

「ちょ、ちょっと!! 寮長!! どうなってんですコレ!! 悠里!! ねえ、龍子さんってば!!」
 永原はそこにいる面子にどうなっているのだと答えを求めるが返ってくるのは沈黙だけ。
「な、何か言ってくださいよ!! 寮長!! 『永原、うるさい!!』でもいいですよ!! どうして黙ってるんですか!? あたし訳がわかんないですよ!!」
 いつも明るく道場のムードメーカーの永原もこの状況ではどうしていいのか分からない。
 そこへ富沢と金井が飛び込んでくる。
「寮長!! 社長と会長の部屋、空っぽです」
「こんなのってないよぉ~、ふえぇぇぇん」
「……そうか、手間かけたな富沢、金井」
 越後が二人の牢を労うと手に持っていた封筒をじっと見つめる。
「龍子先輩……やはり、この手紙だけのようです」
「……しのぶ、皆に聞こえるように読んでくれないか?」
「……はい」
 越後が頷くと集まったメンバーはごくりと息をのむ。

 封筒から便箋が数枚でてくる。
 越後が朗読を開始する。

「いきなり居なくなって――」

 いきなり居なくなってすまない。
 理解してくれとは言わないが、決して皆を裏切ったわけじゃないと信じて欲しい。

 それで、エンジェルカップの疲れは取れたか?
 あの大会での皆の成長は目を見張るものがあった。団体の代表としてこれほど嬉しいことはなかった。
 勝ち負けを超えて、一人一人の中にある光が大きく輝くはじめた瞬間だったと確信している。

 金井は、いつも泣いてばかりいて同期の仲間に甘えていたな?
 でもそれが甘えではなく仲間への信頼に代わり、前に踏み出す勇気を持てた。ただ、練習量が少し足りないな。
 日々、もっと鍛錬をすればきっとAACのジュニアのベルトにも手が届くだろう。


「社長ぉ~、ふぇ……ぐす……泣かないから帰ってきてよぉ」
 金井は泣き出しそうになるのをグッと堪えていた。

 富沢は要領が良すぎて、いい加減に見られがちだが仲間への気遣いや皆に隠れての練習をしてるのは、みんな知っているぞ。
 お前は、もっと自分をさらけ出せ。身近にプロレス馬鹿がいるんだから、もっと素直になれ。
 まあ、コスチュームにお金をかけ過ぎるのはどうかと思うぞ。


「社長……ズルイよ……居なくなってそんな事言うなんて……」
 富沢は金井に背を向けて天を仰いだ。

 永原はいうまでもないかな?

「ちょ、ちょっと!!」

 嘘だ。お前のその直向さは本当に頭が下がるよ。私の言葉を信じて練習の虫になるのはお前で三人目だな。永原の場合はジャーマンに偏りすぎたからどうかとは思うが、今思えば止めなかった私も何かを感じたんだと思う。
 あの市ヶ谷ですら認めたジャーマンへの拘りは誇っていいものだぞ。
 ただ、受身の練習は人の10倍しろ。何を言いたいかは分かっているだろう? そういうことだ。


「……上原さ……あイタ!!」
「馬鹿者……社長と呼べとあれほど……言っている……だろう」
 永原が頭を押さえている横で、少し涙目の越後が拳を握り締めていた。
「社長……どうして、どうしてなんですか!!」
 永原は言わずにはおれなかった。

 しのぶ。大会中の言葉嬉しかったな。プロレスの本質を魅せられる才能を持つしのぶが燻っていたのは私の言葉が足りなかったせいだな。
 プロレスラーたるもの真っ向から相手の技を受けきったこそ。この言葉を体現できる人間は一握りの才能をもったものだけなんだぞ。
 天からの才能を自分で積むことのないように……まあ、もうその心配はいらないな。いつでも挑戦を待っているぞ。


「社長……そう仰るのなら……どうして……」
 越後の便箋を持つ手が震えていた。

 龍子。龍は飛べるんだぞ? 力強い大きな翼を持っているんだ。錆びた刃を見つめていても仕方が無いぞ。お前が思っている程、その刃は斬れないぞ。
 地に刺さった錆びた刃を気にするよりももっと大きな世界へと飛び立つといい。蒼天こそ龍の住処。
 刃の最後の仕事は、龍の足枷を斬ることだ。


「……上原先輩……ならば世界の宝を集めて貴女の挑戦を待つ。物語のクライマックスは龍に苦しめられる世界を伝説の刃をもった勇者が救ってこそハッピーエンドでしょう……」
 龍子は俯いたまま呟く。

 龍子には最後の最後まで面倒をかける。
 龍の子にはお前から声をかけてやってくれ。例の件は段取りがついている。
 悠里、一言だけ言っておく。
 怪我は付き物の世界だ。誰のせいでもなく、皆のせいでもある。
 気にするなとは言わない……全てを受け入れて前に進むといい。悠里なら出来るよきっと。
 あとは、師に任せるとする。元気でな。


「社長……ありがとうございます……」
 楠木は膝を抱えたまま、なんとか声を振り絞った。


 建物は今月一杯使えるようにしてあるし、機材やそのた諸々を処分したお金は各自の口座に振り込んである。
 少ないかも知れないが、当座の足しにしてくれ。
 あと、どんな道を選ぶにしても選択肢が必要だと思う。
 フリーでもよし、他団体でもよし。
 その選択肢として新日本女子を用意しておく。六角コーチが窓口になってくれるようにしている。

 私の最後の我が儘を聞いて欲しい。
 皆には翼がある。
 私が持ち得なかった未来への翼だ。
 だが、この団体では世界へと羽ばたくには小さすぎるんだ。鉄は熱いうちに打てと言う。
 時は今なんだ。




「……以上です。そんなの勝手すぎる……」
 読み終えた越後は納得が出来ないと皆の代弁をする。

 そんな沈んだ空気の中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「はいはい、沈んでるねえ~。お姉さんが相談に乗ってあげるから言ってみな」
 六角が道場の入口で腕を組んで中の様子を見ていたのだ。
 手紙にあった通り、後始末を買って出てたのだろう。
「コーチ!! 上は――社長は何処へ行ったんですか!? 教えて下さい!! 知ってるんでしょう!?」
 一番に飛び出したのは永原だった。六角に掴みかかろうとして片手であしらわれ、床に組み伏せられる。
「なんだいなんだい、一番馬鹿だと思っていた奴が一番骨のある奴なのかい? どいつもこいつもお通夜みたいな面しやがって、今日子の奴も一体今まで何を教えてたんだか……」
 六角が大げさに肩を竦めてみせる。暗に師が馬鹿ならその弟子も馬鹿だと言っているのだ。
「六角コーチ、それは言い過ぎではな――」
「待てよ」
 越後が六角にくってかかるのを龍子が制する。それは越後を諌めるのではなく自分達を愚弄する輩を排除するのは自分の役目だとその目が語っていた。
「おや? 龍子ちゃんが相手かい?」
「ああ、オレが相手だ。コーチ契約も期限切れのはずだろう? 遠慮する要素は何もない」
「ほおぉ、今日子が居なくなると一人称まで変わるんだねえ。けど、その程度の凄みじゃ鼠すら追い払えないね」
 六角の目にも物騒な光が宿る。仮にも上原の頼みで彼女達を身請けしにきた態度には到底見えない。
 むしろ挑発めいた言動で自分に反発させているかのように見受けられる。
「上原さんを馬鹿にする奴は誰であろうと許さない。それがあの人の親友であろうともだ!!」
 殴り合える距離まで近づく龍子に永原を組み伏せたまま見上げる六角。一触即発の空気に誰もが息を呑んだ。
「龍子ちゃん勝てると思っているのかい?」
「ああ? 勝ち負けだけを考えて動けるほど起用じゃないし、そういう問題でもないだろ?」
 剣呑な気を纏い六角に迫る龍子。

「やめて下さいっ!!」
 今まで一言も発していなかった楠木が叫んだ。
「龍子さんも六角コーチも……やめてください。そんな事をして何になるっていうんです?」
 座り込んだまま嗚咽交じりに楠木は懇願する。
「大会も成功した……私達も成長できたと……思っています……これからって時に……どうしてこんな事になるんですか!?」
 龍子は血が上っていた頭が急速に冷えていくのが分かった。
 越後、永原、富沢、金井は楠木が自分達の想いが乗っている事に気付き、それを彼女一人に任せていた事を恥じた。
「それで悠里ちゃんは、どうしたい? 今日子の想いに応えるのか? それとも悲劇のヒロインのまま朽ち果てるのか?」
「私は……前に進みたい……でも、前が見えないんです……」
「……本当にそう思っているのか? 楠木悠里!! いや、ここにいる全員に聞こうか? 本当に道は見えないかい?」
 楠木を含む全員が、先ほどの上原の手紙を思い出しているのは想像にかたくないことだった。
「六角コーチ、あたしは新女に行くよ」
「QTも行く」
「仕方ないわね……私も行く。龍刃道場魂でもって新女でのし上がってやるわよ」
 団体のムードメーカーたる永原が先陣を切り、金井、富沢が意を決して続く。
「いいねえ、そういうのお姉さん好きだよ」
 六角が笑みを浮かべる。
「……自分は……フリーで全国を渡り歩きます……」
「りょ、寮長!?」
「永原すまない……タッグは解消だ」
「え? じゃあ、アジアタッグへの挑戦はどうするんですか!?」
 永原は越後も『お前達だけじゃ不安だ』と言ってついてきてくれると思っていたし、タッグ解消なんて夢にも思っていなかった。
「金井か富沢と組め。今のお前なら誰とでもタッグを組めるはずだ」
「……分かりました。でもいつかあたしがもっと成長した時にはもう一度組んでくれますか?」
「約束しよう……このエンジェルイヤリングにかけて」
 越後と永原が固く握手を交わす。そこにはもう寮長に頼る後輩の姿はなく、対等な二人のレスラーがいた。


「じゃあ、龍子ちゃんと悠里ちゃんの番だねえ~」
 六角が意味ありげに笑みを浮かべ、ある意味問題のある二人の動向を見つめていた。

「……悠里」
「はい。何ですか?」
「敢えて私はお前の選択肢を奪う。師として最後の指示だ……六角について行き、海外修行にでろ。そして、ユーリスターハンマー、ノヴァを完成させろ」
「龍子さん!!」
「同じ事を言わせるな!! お前に選択肢はない」
「……嫌です!! どうしてそんな勝手なことを言うんですか!!」
 有無を言わせぬ鬼気迫る龍子の迫力に怯む事無く楠木は自分の意思を示す。
「……悠里……頼む……黙って頷いてくれ……これは私の願いでもあり、上原さんの願いでもある……六角のツテで最高のラリアッターに師事できるはずだ」
 龍子は何かを我慢するかのように言葉を搾り出す。龍子が普段見せない姿を見せられては楠木も頷くしかなくなった。
「……わかりました……自分を高めに行って来ます。六角コーチも改めてよろしくお願い致します」
「ああ、任されよう」
「でも、これだけは言わせて下さい。此処(龍刃道場)が私の居場所であり、上原さん、龍子さん、越後さん、ちづる、レイ、美加が私の家族です。それはこれから先どんな事があっても変わる事のないものです」
 楠木は力強く宣言した。
「……惚れ惚れするねえ~。で、その師である龍子ちゃんの選択を聞かせてもらえるかい?」
 あたかも聞くまでもなく答えは知っているが、聞こうではないかと六角は龍子を促した。
「……龍刃道場以外の選択肢はない」
 六角を除く全員が龍子に視線を向けた。
「ふーん。でも、登記やなにやら龍子ちゃん一人で出来るものでもないだろう?」
 六角はその回答が予想通りだとばかりに意地の悪い質問を投げ掛けた。
「フッ……わかっていて聞くのか? 六角。まあいい、応えてやるよ」
「ありがたいねえー。丁重に拝聴致しましょう」
「ムカツク奴だ……確かに色々と問題があるだろうな。だが記録には残らないがファンの記憶には残してみせよう。私が『龍刃道場』なんだよ」
 龍子が六角を睨みつけて言葉を叩きつけると、あとは仲間を一人一人見つめるとこう付け加えた。
「お前達の選択はどれも間違いじゃない。信じる道を進めばいい、お前達がお前達である限り得たものが色褪せることは決して無いだろう。だが、どんなことがあっても後ろには下がるなよ!」
『ハイッ!!』と全員の声が揃う。ここが終わりではなく、始まりなのだと決意を新たにした瞬間だった。


――空港ロビー

「本当にいいんですの? 今なら無かったことに出来ますわよ」
 シンプルながらもどこか煌びやかな純白のスーツを身に纏ったビューティ市ヶ谷が目の前の男女に確認を取る。
「心配かけてすまないな、市ヶ谷」
「べ、別に心配などしていませんわ! やっと弱小団体から解放されてせいせいしていますの!」
「そうだな。似合わぬ縛りの中、本当に助かっていたよ。ありがとう」
「だから、別に貴女の為ではありませんわ!! 私がやりたいからやっていただけの事。礼を言われる筋合いはありませんわ……まあ、楽しかったですわよ」
「市ヶ谷……」
「そ、その貧乏臭い顔は見飽きましたわ! メキシコでもどこでも行くといいですわ!! 後の事はは市ヶ谷財閥が引き受けますわ……悲願を果たせるといいですわね」
「そうさせてもらうよ。それと綾、見送りありがとう」
「ふぇぇ……上原お姉ちゃん……グスグス……」
「ほら、泣かないの。綾は立派なプロレスラーだろ?」
「う、うん」
「いい子だ。頑張りなさい。諦めずに頑張ればきっと夢は叶うから……チャンピオンになるのを楽しみにしているよ」
「うぅぅ……綾、頑張る。ちゃんぴおんになってみせるから……その時はきっと見にきてね?」
「勿論、約束する。楽しみにしているよ」
 上原は榎本の小さな手としっかりと握手を交わした。
「上原さん、時間だ」
「ええ」
 上原と元会長は搭乗口へと向かった。

 ロサンゼルス経由メキシコ行き103便にご搭乗のお客様は搭乗口25番へとお急ぎ下さい。
 間もなく出発したします。
 繰り返します――

「1人悪あがきするであろう弟子を私に押し付けるとは上原さんも一筋縄ではいきませんわね……それほどまでに……何もかもを捨てる覚悟でないと駄目ということかしら……あの人と雌雄を決するには……」
 二人を見送った市ヶ谷は独白する。


 翌日の新聞各紙にはこんな文字が躍った。

 龍刃道場消滅!! ブレード上原、謎の失踪!?

 そして、この記事の後にこうも続いていた。

 市ヶ谷オフィス設立
 龍刃道場を買収か!? 龍刃ヘビー級王座の封印を賭けて、サンダー龍子と激突必至!!

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Author:上原 柊
画像は、玉倉かほ様の了承を得て貼らせて頂いております。

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誰も読んでないと思うけど、恋姫話は現在↑のところで書いてます。無謀もいいとこですが、、まあいけるとこまで行くぜって感じで。

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