スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『エンジェルカップ』最終日 第五試合

「す、す、すっごくお客さん入ってますね」
 少しどもりながら見たままの事を言っているのは永原ちづるで、それを黙って聞いているのは越後しのぶ。
「あ、あたし、こんな大っきい会場初めてなんですけど……」
「……だ、大丈夫だ」
 妙に緊張気味な永原に、とても大丈夫には聞こえない越後の返事。

 控え室でモニター越しに見える風景は、自分たちの団体では到底お目にかかれないものなのだから、二人に緊張するなというほうが無理だった。
 そこに、現れたのは第二試合でそのありえない風景の中で戦い、勝ち残った楠木だった。

「寮長、ちづる」
 体のあちこちに絆創膏やら湿布を張っている楠木が笑みを浮かべて二人に話しかけた。
「楠木か……おめでとう。よくやったな。あと一つ、悔いのないようにやれよ」
「悠里、おめでとう。大丈夫? メインでも試合あるんでしょ?」
 越後にしても永原にしても、仲間を気遣う余裕は残っていた。
「ありがとうございます!! 二人の言葉をそのままお返しします。私がここまでやれたのは団体のみんなのお陰です。正直、この観客には驚きました。でも、リングですることは会場が大きくても小さくても一緒なんですよ」
「「!!」」
「社長がいつも言ってますよね? 『苦しい時、逃げ出したい時には仲間の顔を思い出せ、日々のトレーニングを思い出せ』と。私達は1人じゃなんです。今だって、寮長もちづるも自分たちの試合がすぐにあるのに私の心配をしてくれましたよね? 同じですよ。お二人の後ろには私達がいます。私達のプロレスをしましょう!!」
 楠木が拳を握り締めて懸命に語りかけた。そんな言葉が響かぬはずはなく、越後、永原の目から緊張の色が消えていた。
「……やれやれ。面倒見る立場の私が面倒見られていては駄目だな。気を引き締めて永原の手綱を握っておくとするよ」
「あーっ!! 寮長、それってあたしが思いっきり馬鹿なことするみたいじゃないですか!? あたしだって成長してるんですよ~。ぶーぶー」
 いつもの調子に戻った時に、会場では休憩終了のアナウンスが流れ始めていた。


 一方、対戦相手の控え室では……。

「面白いじゃないか、この満員の観客の度肝を抜いて私達が優勝を掻っ攫う。笑いがとまんねー。なあ、千秋」
「そうさ。タッグってのはこういもんだってのを見せ付けて優勝する。付け焼刃のおこちゃまコンビなんざ、あたし達の敵じゃねーよ」
 双子の姉妹は、この大舞台においても緊張ってものを知らないようだった。
 そんな双子を見て、釘を刺すのも最早定番の仕事になりつつあったのか、朝比奈が見かねて声をかけた。
「……余裕をぶっこいているところを見ると何か考えがあるようだが、机上の空論にならねえようにするんだぞ? 策士策に溺れるなよ?」
「ばーか、私らがそんなヘマするかよ」
「あたし達にかかりゃイチコロだぜ」
 朝比奈の忠告にも耳を貸す気もない双子は、余裕綽々だった。
「よく言うぜ。前の試合でも偉そうに言っておいて引き分けだっただじゃねえか。ま、お前たちの試合だし、俺がどうこういう話じゃないのも道理。けど、龍刃の連中とやりあった経験から言わせて貰えば、対戦相手の越後と永原のコンビは強いぞ」
 朝比奈はそういって控え室からでていった。
「ケッ、なんだいなんだい、自分が負けたからって私達も負けるってか? 笑わせんじゃねーよ」
「ああ、あたし達には切り札があんだよ、切り札が。どこぞの奴が言ってたが、マゾと馬鹿の組み合わせに負けるわけがねーよ」
 双子はあくまでも強気。今までは手を抜いていたといわんばかりの台詞。だが某狐の調教師は、その強気な台詞を吐いて苦杯を舐めたことを双子は覚えているのだろうか?
 それでも百戦練磨の双子が有利なのは事実に他ならない。勝ちはないもののどんな相手にも負けていないのだ。
 勝てないと言われればそれまでかもしれないが、事実は逆で見下していた存在が負けずにここまでいるのはどういうことか?
「さて、休憩も終わりだな」
「さっさと片付けちまおう」
「「優勝するのは村上姉妹だからな!!」」
 係員が呼びのに来る前にさっさとリングに向かう双子。
 今日の試合は真っ向からいくのか?
 それともセコくいくのか?
 はたまた……。

 タッグリーグの優勝をかけた一戦が今始まる。

 『エンジェルカップ』最終日 第五試合
 越後しのぶ(龍刃道場)vs村上千春(百鬼夜行)
 永原ちづる(龍刃道場)  村上千秋(百鬼夜行)


「会場にお越しのプロレスファンの皆様!! 前半戦の熱戦をご覧いただいてお分かりのように若き天使達や堕天使達が己が矜持をかけて戦う姿のなんと美しいことか!!」
 アナウンスで流れるその声は主催者のものだろう。会場の熱気が収まるどころかますます加熱している中にさらなる爆薬を投下する。
「これから始まるタッグリーグの最終戦。どのチームも優勝の目が残っています。勝てば天国! 負ければ地獄! ご贔屓のタッグにあらんばかりの声援、ブーイングをお送り下さい!! それではレディーーーゴーーーッ!!」

「それでは、本日の第五試合をはじめたいと思います。まずは、変幻自在のタッチワーク、双子ならではの一糸乱れぬ連携攻撃、世界最高のタッグ無敗のツインズ村上千春、千秋の入場です!!」
 紹介にされると同時に普通に入場してくる村上姉妹。
 花道をゆったりと入場してくる様子は、自信の表れかいつもの観客を挑発する行為すらない。
 ゆっくりと花道の感触を確かめるように、歩いてロープをくぐりリングイン。

「その対戦相手は、龍刃の盾と矛が頂点を目指す!! 相手の心を折る最強の受けの越後しのぶ、乾坤一擲、どんな状況をも打破してみせる最高のジャーマンの永原ちづるの入場です!!」
 スポットライトを観客の視線が入場口に集まったとき、コーナーにいた二つの影が一つになった。
 だれも気付かないままに入場してくる越後、永原。
 気合十分。大会で一番の状態なのは間違いない。どんな相手であろうと負ける気はしない二人に油断があった。
 リングイン手前で千秋が眼前のコーナーに上り挑発してきた。
「おい、越前だが越中だかしらねーけどよ、お前、馬鹿じゃねーのか? 相手の技ばっか受けて何が楽しいんだよ!! まあ、今日は徹底的にお前を潰してやんよ!! 覚悟しろ!!」
 親指を下に向けて舌を出す千秋に反応したのは、永原のほう。
「ふざけるなー!! お前らなんかの技なんかで越後さんを沈められる訳ないじゃん!! 馬鹿はお前だ!! ばぁーか!!」
「へー、そんなに凄いんだ? その越後ちゃんは? ケケケ」
「……」
「あったりまえだろ!! お前らなんかぎっちょんぎっちょんにしてやるんだからなー!!」
「そう? ならこんな攻撃でも大丈夫だよね?」

 ボコォォォォン!!
 何かを叩きつける音が永原の背後から聞こえてきた。

「え!?」
 驚いて振り向くとパイプ椅子を背後から叩きつけられた越後が倒れていた。
「お前ら馬鹿じゃねーの? これはシングルじゃねーんだぜ。相手の人数をよく見て動けよ、ばーか」

 ここで試合開始のゴングが鳴らされた。

 ボコンとぶち抜けた椅子の座席部分を越後に叩きつけると千春がそのまま永原に突っこんでいく。
 完全に不意を疲れた永原は千春のスピアを喰らいエプロンとサンドイッチ。
「がはっ!!」
「そらよ! もいっちょ!!」
 リング内から千秋のスライディングキックが永原の後頭部に炸裂し、崩れ落ちる永原。
 それをも見て悠々とリングに戻る千春。千秋がレフリーに場外カウントを要請。
 カウントが始まると会場からはブーイングの嵐。
 村上姉妹にとっては賛辞の嵐。気をよくしてコーナーに戻り千秋がトップロープに座り、その前で千春が首を左右に動かして物足りなさそうにカウントを聞いていた。
「案外脆かったな?」
「あんなもんじゃないのか? 温室育ちの連中は」
 そんな会話が聞こえたのか、ロープに手がかかりリングに体を戻してきたのは越後しのぶだった。
「あ、あれ? 千春、思いっきりぶっ叩いたんだよな?」
「当たり前だろうが!!」
「なら、なんでリングに戻ってくるのがアイツなんだ?」
「知るか!! 予定と違うがやるしかねーだろ?」
「だな」
 千春が越後に向かって飛び出していく。
 ステップインでの掌底を連打で一気に押し切ろうとするが、捌かれはしないが防御を固める越後はなかなか後退しない。
(……くっ……頭がフラフラする……)
 押される越後にしても、千春の打撃をまともに喰らうわけにはいかないので、亀のようになるしか方法はない。
「死にぞこないが、ウゼぇんだよ!!」
 すっと間合いを詰めると千春は越後を抱え上げリングに叩きつける。越後も普段なら踏ん張れるボディスラムも完全に押されているので対応が一歩も二歩も遅れる。
 背中を思いっきり叩きつけられて目が覚めるが、千春も勝負どころ心得ている。一気呵成に攻め込んでくる。ギロチンドロップを重ねてきた。
「ごふっ」
 越後が喉を押さえて蹲れば、キャメルクラッチにその体を押さえつける。
「千秋!!」
 絞り込んでのダメージを積み重ねるかとおもいきや、千秋を呼び込んで低空ドロップキックを叩き込ませた。
 ダメージを逃がすことが出来ない越後はモロにその衝撃を体内に残すことになる。
 誤爆の危険もあったが、そこは双子の呼吸がものをいう。
 千春は越後の体を引きづり起すと両足をロープにかけ、両手をもって越後の体を宙に浮かす。
「千秋!! もう一つだ!!」
「任せろ!!」
 コーナーに上ると千秋はダイビングフットスタンプを越後の腹に突き刺した。越後はフットスタンプの衝撃とリングに叩きつけられるWの衝撃に息を詰まらせる。
「そらよ。終りだ」
 千春がカバーに入るとカウントは2.5。
 越後の気力は驚嘆に値する。肩が上がらないならばと辛うじて足をサイドロープにかけたのだ。
「チッ。しぶといな」
 舌打ちして千春は千秋と交代する。
「これで、決めちまえばいいさ」
 千秋が呟きながら、越後をトップロープへ持たれかけさせる。
「てめーら、そろそろ状況が理解出来たころだろう? ここで聞いたやるから素直に答えな!! 優勝するのはどこのチームだと思う?」
 千秋と千春がそれぞれ耳を傾けると会場からはブーイングと「越後頑張れ!!」「永原!!」と声援が飛んでくる。
「そうだろうそうだろう。村上姉妹だよな? よく分かってるじゃねえか。それを今からみせてやんよ。千春!!」
「応よ!!」
 千秋の合図に、千春は越後が持たれかかっているトップロープを掴んで場外へジャンプ。弓の弦のように張ったトップロープが越後を矢に見立てて吹き飛ばした。
 そして、その勢いを利用してバックに回っていたいた千秋がバックドロップを放つとリングを振るわせる衝撃とともに越後をマットに叩きつけた。

 会場からは悲鳴が上がる。
 越後コールも巻き起こり、越後が立ち上がるのを会場が後押しをするかのようだった。

「馬ぁ鹿。立てるわけ無いんだよ」
 千秋が完全に勝利を確信してフォールに行くのを止めて会場へ挑発すると千春も乗ってくる。
「大体、私達が勝つに決まってたんだよ。それを今思い知らせてやったんだよ。どこぞのモデル崩れはそこらへんの美意識が足りネーから最後の最後で足元をすくわれたんだよ!!」
「だ・け・ど、あたしらはそんなヘマはしねー」
「勝つだけなら誰だってできんだよ。いまでも、フォールしちまえば終りだ。けどな、そんなの面白くもなんともねーだろ? 希望も何もかもを打ち砕いてどん底に落としてから私達は勝利の勝ち名乗りを受けるのさ。この後の奴等にも十分にプロレスの何たるかをしってもらわねーとな、あははは!!」
 千春が言い終わると、千秋がようやくカーバーには入りカウントが入る。

 ワーン!
 会場からは悲鳴に近い声援が起きる。
「無理無理、あたしらのスリングバレットを喰らって立ち上がれるもんか」

 トゥー!
 会場はどよめきが起きる
「なんだいなんだい、ようやく私らの凄さが分かったのかよ」
 この時千春が場外で観客に向かって挑発していなければ状況はまた違ったのだろうが、それほどに合体技に自信があったのだろう。
 後悔先に立たず。
 レフリーがカウント3を宣言する前に千春は聞き覚えのある音を聞いた。

 ボコォォォォン!!
 何かを叩きつける音が千春の背後から聞こえてきたのだ。

 リング上では首にパイプ椅子を巻きつけた千秋が倒れており、レフリーに制止されている永原がいた。
「先にしてきたのあいつらじゃん!! なんであたしがしたら駄目なんだよ!!」
「永原、下がれ!! お前に試合の権利はない!!」
「越後さん!! 越後さん!!」
「下がれ、下がらないか!!」
 レフリーを越えて越後に近づこうとする永原に反則カウントが数えられる。
「っ!! 分かったよ!! 戻ればいいんだろ! 戻れば!!」
 渋々、コーナーへ戻る永原の額からは血が垂れていた。最初の襲撃で切ったのだろう。血を手で拭ううと拳を握り締めた。
(くそっ!! あたしが最初にあの挑発に乗らなければ、こんなことには……)
「越後さん!! 起きて!!」
 永原は声の限り越後を呼ぶ。もう、次は割って入れないので、ここは何としても越後に切り抜けてもらいタッチを受けないといけない。
「越後さん!!」
 永原の声が届いていないのか、越後が立ち上がる気配はなく起き上がってきたのは千秋のほうだった。
「いてて、ふざけやがって……ただじゃおかねー!!」
 首にかかったパイプ椅子を投げ捨てると越後を引きずり起し、ガッチリと背後から捕らえると渾身の裏投げで越後を投げ捨てた。
「がはっ!!」
 越後の意識が痛みで戻ってきた。が、動けないのには変わりない。
 千秋は、カバーを選ばずに更なる攻撃を選択。
「千春!!」
「よっしゃ!!」
 越後が仰向けに倒れているところに向けて、村上姉妹は互いにロープに向かって走りこむとその反動を利用してタイミングを計る。
「3、2、1、Fire!!」
 二人同時にエルボードロップを繰り出すと、ここで、会場からどよめきがおきた。
 普通に落下するのではなく、飛び出したのが村上姉妹がお互い向けて飛び出して空中で腕を絡めて、横への勢いを消し腕をクロスしたまま越後へ落下したのだ。
 飛ぶタイミング、クロスしての力のベクトル変更とこのときばかりは会場も双子ならではの阿吽の呼吸に感嘆の溜息を漏らした。

「がっ」

 越後は完全に覚醒すると同時に絶体絶命のピンチであることが理解できた。
 だから、なりふり構わず勝負に出た。
 千秋がカバーしてくると辛うじて出せる声で呟いた。
「……姉の……協力が……無ければ……何も……できな……いのか?……糞妹」  
 虫の息の越後にまさか罵られるとは思っていなかった千秋は完全に血が頭に上った。普段なら鼻で笑って無視するのだが、何試合か前の千春の言葉が千秋に心の片隅にあったことが越後には功をそうした。

『おい千秋、なにが楽して引き分けだよ。お前ばっか楽な作戦じゃねえか!』

(あたいは千春の力が無くたってやれるんだよ!!)
 カウント2で千秋はフォールを解くと越後を引き起す。
「おいおい、何やってんだよ、千秋!!」
「千春は黙ってろ!!あたしだって別に好きで作戦ばっか立ててるわけじゃねー!!」
「千秋……」
 この様子を見て取った越後は千載一遇のチャンスだと最後の撒き餌を放った。
 力の無いショートレンジのラリアット。
「……くたばれ」
「うぜえんだよ!! 死に底無いが!! ラリアットってのはこうやるんだよ!!」
 フラフラの越後をロープへと振る千秋が見たものは越後の笑みだった。
(し、しまった!!)
 千秋は自分が乗せられたことに気がついて串刺しラリアットに切り替え後を追ったが、越後がロープにしがみ付き永原にタッチしたのと同時だった。
「……しばらく……頼む。永原」
 場外へ転がり落ちる越後に親指を立てると永原は元気よく叫んだ。
「おっまかせー!! 永原ちづる、いっきまーす!!」
「野郎! ふざけやがって!!」
 千秋が越後に放つはずだったラリアットを永原にぶっ放すも、アッサリとその腕をくぐられてバックを取られると踏ん張る間もなくマットに後頭部を叩きつけられた。
「まずは一発!! 今日はジャーマン大特大日!! どんどん行っちゃうよー!!」
 特売日と言いたいのか特大のジャーマンを出すのか言ってる意味がよく分からない永原の台詞とは逆にその目は真剣そのもの。
(この試合はタッグ。私がするのは越後さんが回復するまでの時間稼ぎ……やるべき事は相手の連携分断……)
「そこのコピーロボットもブン投げちゃうよ!!」
 千春を指差し突貫する永原。
「調子にのんな!!」
 千春がリングに飛び出すと永原は勢いそのままにスライディングで場外へ飛びだすと千春の足を思いっきり引っ張ってダウンさせる。
「いってー!!」
 千春は完全に不意をつかれて、そのまま場外へひきずり出される。
「いっくよー!! 本日、2発目ー!!」
 観客へのアピールで会場も盛り上がる。流れを断ち切るでく永原の獅子奮迅の働きに観客は大逆転の望む。
「馬鹿か! 来るって分かってる技をくらうわけがな――」
 千春は最後まで話すことなく場外でジャーマンを喰らって沈黙した。
 永原はすぐさまリングに戻ると立ち上がってきた千秋と対峙する。ここからが本番なのだ。
(いずれ、向こうも戻ってくる……何とか踏ん張らないと)
「やってくれるじゃなーか」
「あったりまえじゃん! あんたら何かに負けないぞ!!」とひとさし指をおっ立てて挑発する永原。
「……そこは中指だろ? お前、やっぱ馬鹿だろ?」
「う、う、うるさい!! ちょっと、間違えただけだよ!! レイに教えてもらったんだからな!!」


――控え室
「へっくし!! へっくし!! 誰よ、私の悪口してんの。どうせ、おっぱい馬鹿のちづるでしょうけど、こっちはこっちで悠里の為に忙しいのよ!! 頑張れっての!!」


「へっくち!! へっくち!!」
「お、きったねーな! くしゃみする時は口を抑えろよ!!」
「そ、そんなことより、ブン投げるから覚悟しろ!!」
 永原の啖呵を合図に、試合が再び動き始めるが、千秋も心得たもので先ほどの焦りはなく千春が戻ってくるのを待ちながら永原のタックルを警戒していた。
「そら!!」
 エルボーを永原に見舞う千秋。決して大振りはしない。
 永原もじっくり闘いたい思惑があり、一度は終盤に向かった試合の流れは再度序盤に戻ったかのような技の応酬となる。
 エルボーに打ち合い。
 力比べ。
 時折見せる永原の空中戦に千秋は付き合わず、じっくりと腰を落ちつけて互いの体力を削りあった。

「せい、せい、せやっ!!」
 エルボー連打から千秋をロープに振る永原は相手の動きの無さが気になっていた。
 千春が復帰してからも千秋はノラリクラリとかわしながら全うに一騎打ちをしてくるのだ。
(……気になるけど、そうきてくれるならこっちも願ったり叶ったり)
 そんな永原の思惑を知ってか、ロープから戻ってきた千秋は永原のラリアットをくぐるとそのまま場外へとエスケープした。
 そのまま実況席のマイクを強奪すると、永原への口撃を開始した。
「おいおい、つまんねー試合になってきたじゃねーかよ!! 折角、あたしらがいきなりクライマックスに盛り上げてやったのによ!! 柄にも無くしょっぱい時間稼ぎなんかしやがって、面白くもなんともねーよ。会場のファンもそう思うよな!?」

 BOOOOO!!

「そらみろ!! 客も面白くねーっていってるだろうが!! でも、微かな希望に縋りつきたいのは分かるぜ。なんてったって、最も強く、最も格好良く、最もファンに好かれてる村上姉妹が相手だもんな?」

 BOOOOOO!!

「で、そこでだ。こうまで盛り下がった空気を跳ね上げる為に良いことを教えてやるよ! 村上姉妹最強にして最高の合体技『ダブルクロス』でお前を沈めてやんよ!! で、忠告だ。2度あることは3度あるんだぜ!!」
「ま、まさか!?」
 永原が振り返ると、千春がパイプ椅子を振りかぶった所だった。
 狙いは当然、回復途中の越後しのぶ。村上姉妹は完全に2対1の状況を作りあげるつもりらしい。
「越後さん!!」
 永原は慌てて場外に駆け下りるが、パイプ椅子は振り下ろされなかった。
「ばーか! 狙いはお前なんだよ!!」
 越後に駆け寄ろうとした永原を千秋が羽交い絞めに捕らえる。
「し、しまった!!」
「ほんと、お前単純だよな? 馬鹿の相手は楽でいいぜ、この間の狐みてーだな」
「う、うるさい!!」
「いくぜー!! ダブルクローーース!!」
 千春が叫ぶと会場がどよめく。ついさっきアピールした技が炸裂しようとしているのだ。
 大げさに右腕を振り上げると勢いよく回転して張り手を繰り出してくる千春。

 バッチーーン!!

 千春のローリング張り手が千秋に誤爆した。
 当たる直前で永原が腰を落として回避したのだ。
「なにが、最強最高だ。ちっとも恐くないもんねー!! 反撃開始ー!!」
 誤爆してふらつく千秋にローリングソバットを綺麗に決めると、目の前の千春にその場飛びのドロップキックを浴びせて窮地を脱出する。
 拍手喝采!!
 試合権利を持っている千秋をリングに無理矢理戻すと永原も続いて戻る。

 越後は呼吸を整え、ここ一番の為に指一本動かすことすら止めていた。
 だから、先ほどの千春の襲撃にも永原を信じて何もしなかったが、村上姉妹の動きにどうも違和感を感じていた。
(わざわざ、試合中にアピールするほどの技なのか?)
 越後の疑問も至極当然。ヒール連中にしてみれば、あの程度の連携など日常茶飯事だし、誤爆もあって当然なのに最高最強とハッタリをかます必要がどこにあるのだろうと。
(考えてもどうにもできない。まずは、最後のチャンスに動けるようにならねばな)
 越後は自分にそう言い聞かせて目を閉じた。
 今の永原ならば、自分の背中を安心して任せることができると越後は信じていた。

 好事魔多し

 試合の流れが完全に永原に向いていた。
 2対1の中で、押されながらも要所要所で相手の流れを切ってとっていた。
 フロントスープレックス
 ジャンピングネックブリーカー
 ラリアット
 ジャーマンを出さずして、簡単に流れを取り戻すことが出来ていたのだ。
(いける! いける! 越後さんに負担をかけないでこのまま押し切れる!!)
 千春が打撃を中心に攻めて来るが、永原の目には簡単に捌けるように映り、実際にイメージどおりに事がすすんだ。
「千秋!! やべー!! こいつ、っぱねー」
「千春、頑張れ!! アイツだって人間だ、頑張ればなんとかなるよ!!」
 姉妹愛全開の台詞、村上姉妹がいうとどこか胡散臭く感じるはずが、永原には心地よく聞こえた。
 前半の千秋を似たような状況に陥っていたのだろう。永原はどこかで越後に恩返しをしたいと思っていた。それが、この大舞台で叶おうとしているのだ。違和感も今の永原には感じ取れない。
「いっけー!!」
 千春を捕まえてロープへ振り自らも追いかけようとしたが、走り出す寸前にエプロンから千秋に足をとられて顔面を強か打ちつけてしまう。
「うー」
 永原が顔を抑えて蹲るのを無理やり千秋が起し羽交い絞めに捕らえる。
「かかったな、ばーか!!」
 千春が駆け戻ってきて小さいモーションで永原の腹にパンチを打ち込む。
「ぐっぅ」
「逃げれねーよ!! ボッコボコにしてやんよ!!」
 しつこく腹へ膝やらパンチを存分に叩き込んだ後、千春がブイサイン二つ作って合体させて叫ぶ。
「いっくぜーーーー!! 真・ダブルクローーース!!」
 ステップを小刻みに踏みながらタイミングをとり、千春は渾身の右ハイキックを繰り出した。
 永原は心の中でラッキーと思った。会場の全員もまた誤爆しろと念じた。
「甘い!!」
 永原がまたもストンと腰を落とし、千春の右ハイキックをかわした。
 会場も大歓声になるはずが、静かなまま。
 それもそのはず、千秋も一緒に屈み、千春の右ハイキックをかわしていたのだ。
 それに気付いたのは、永原が再び羽交い絞めにされてもう一度立たされ、空振りの勢いを利用して再び千春が繰り出した右ハイキックが自身の左側頭部を打ち抜いたあとだった。

 崩れ落ちる永原。
 かわしたという安心感とこれから反撃という気持ちが同時に折られてしまったのだ。
 心身ともにダメージを追わせる恐るべき合体技『ダブルクロス』

「越後ちゃーん、頼みの綱の馬鹿はもう終わったぜ」
 千春が、越後に向かって馬鹿にしたように話す。
「役に立たねーよな? タッグってのは1+1を3にも4にもしないといけないんだぜ?」
「そうそう、あたい達みたいなタッグのようにさ」
 千秋も念のためカットに備えて千春の前に立って続く。
「お前らみたいないつまでたっても2にしかならないタッグなんざ、お呼びじゃねーんだよ!! ほかのタッグもよく聞いとけよ!!」
「さあ、馬鹿な観客共!! 一緒にカウントを数えようじゃねーか!! ハハハハハ!! 千春」
「おう」
 千春が永原を踏みつけフォールにするとカウントが始まった。
(確かに私達は1+1=2のタッグだろう……しかし、力は増えても人数は増えない。お互いが信じて全力を尽くせば何かが見えてくるはずだ……そうだよな、永原)
 越後は最後の逆転に賭けるべく動かないことを選んだ。諦めたのではなく、パートナーを信じて待つことを。

 ワーン!!
「そら、1だぜ!!」
「数えるだけ無駄だけどな」
 観客は完全に沈黙するが、1人だけ違う人間がいた。
「永原、聞こえてるだろう」

 トゥー!!
「もう3でよくね?」
「ギャハハハハ、だよなー」
「永原、起きろ……そうしたら私も向かおう」

「無理無理!!」
 ス……
「永原ぁぁぁぁーーー!!」

 レフリーがカウントを止めた。
「おい、レフリー何やってんだよ!! 3つだろうが3つ!!」
「駄目だ。見てみろ。永原の足がロープに掛かっている。ロープブレイクだ。離れろ村上」
 完全に決まった合体技がまたしても慢心を生んだ。
 普通に体固めにしていれば、永原の足がロープに届くことはなかった。
「千秋、面倒だがスリングバレットで決めちまうぞ」
「分かった姉貴!!」
 意識が朦朧としながらもロープを背に何とか立ち上がった永原に膝を一発叩き込むとうつ伏せにトップロープにもたれさせる。
「準備はいいか?」
「いくぜ、千春!!」
 千秋がトップロープを掴んでエプロンから場外へ飛び降りた時、会場が沸いた。
「千春ッ、越後だ!!」
 千秋の視野に一瞬、コーナーから飛び出してくる越後が映った。
 しかし、技は止まらないが一瞬ロープを離す手が遅れた。
「吹き飛べっ!!」
「くそっ!!」
 千春は迷ってしまった。越後迎撃か永原攻撃か。それが千秋のロープを放すことが遅れたこととあいまって致命傷となった。
 越後のスピアもろに受けて永原を預けているロープへ吹き飛び、その反動で永原と入れ替わってしまった。
「しまっ――」
 ロープが反動で千春を矢の如く弾き出した。
 そこに待ち受けるのは、最後の力を振り絞って飛び上がった越後の延髄斬りだ。千春の体が正面を向いているので、正確にはレッグラリアットというほうが正しいかもしれない。
 自分たちの合体技を利用されてしまった形の村上姉妹。
「がはっ!!」
「永原ぁぁ!! 最後はお前だ!!」
 越後吼えて、そのまま場外に転がり落ち動揺隠せない千秋にしがみ付いた。

 永原は越後の声に反応して立ち上がる。
 千春もふら付きながらもロープを手に立ち上がりろうとしていた。自分達の技で沈む訳にはいかないとの思いが限界を超えた体を突き動かしていたのだろう。
「千春!!」
「永原!!」
 場外から声が飛ぶ。
「……寮長が……期待してる……あたし……頑張らないと……」
 意識が朦朧とし頼りない足取りで千春の近づく永原。
「ふ、ふざけんな……こんな形で……私らが……負ける……はずはねえんだ……勝ってた……勝ってたんだ」
 千春の腰がガクンと落ちたはずだが、その体はマットにつくことは無かった。
 永原がバックをとったのだ。
「くそったれが!!」
 永原がふらついていることに一縷の望みを賭けて千春は全体重を永原に預けて潰しにかかった。
 しかし、その望みが叶うことは無かった。
 ジャーマンに賭ける情熱と信じる絆、そして何よりも永原ちづるが優勝への人間橋を架けさせた。

 会場が一体になっての3カウント。

 永原、越後の大コールで幕を閉じた。


  越後しのぶ(     23分15秒    )村上千春×
 ○永原ちづる(ジャーマンスプレックスホールド)村上千秋

コメントの投稿

非公開コメント

まったりとプレイ中・・・ではない
Web 恋姫†無想 張遼を育成中!
興行日程
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
プロフィールなのか?

上原 柊

Author:上原 柊
画像は、玉倉かほ様の了承を得て貼らせて頂いております。

胡蝶の夢

誰も読んでないと思うけど、恋姫話は現在↑のところで書いてます。無謀もいいとこですが、、まあいけるとこまで行くぜって感じで。

FC2カウンター
なにかあれば、コチラ
拍手する
検定
なんとなくやってみた。頑張った。
最新記事
最新コメント
リンク
なにわんGP楽しかったですねー
なにわんGP応援中!
ζ'ヮ')ζ<よみますよぉー
『4ページマンガ最前線』 | 最前線
カテゴリ
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
最新トラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。