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龍刃道場の日常その9

「……うーん……」
 永原ちづるは目が覚めた。明日の試合に備えて、練習もそこそこに休養日にあてられたにも拘らずに。
 いくら能天気とはいえ、明日の一戦で栄冠に手が届くかもしれないとなっては仕方のないことだった。
 この状況で欲がでないなんて人間はいない。いるとしれば、そいつはプロレスラーなんか辞めて仏門にでもはいればいい。
「……少し汗をかこう」
 そう呟いて、ベッドから起き上がると同室の楠木がまだ戻ってきていないことに気付く。
(あれ~? 悠里まだ戻ってないんだ)
「皆同じなのかな……」
 永原は自分のスポーツタオルを引っつかむと道場へと足を伸ばした。

――道場前

「龍子先輩に楠木!? こんな時間に何をやっているんだ?」
 越後しのぶは自分のことを棚にあげていぶかしんだ。
「スパーリング?」
 月明かりだけでリングで技を掛け合っているのを見て越後は呟くがすぐにそれが間違いだと気付く。一方的に楠木が龍子に技を掛けているのだが、龍子が平然と起き上がることの繰り返しだったから。
 龍子の受身の練習に楠木が付き合っているようにも見えなくもないが、それは龍子の額から血がらしきものが流れていなくて、楠木が嗚咽と共に技を繰り出していなければの話。
「……一体、何を……」
 しているのかと呟きかけたその時、背後から聞きなれた声が聞こえてきた。
「あれ? 寮長も眠れな――むぐっ」
 永原である。
「静かにしろ」
 越後は永原の口を押さえてしまう。永原は混乱しそうになるも越後の真剣な表情の前に頷くばかりだった。
「……いいか、騒ぐなよ」
(コクコク)
 越後が永原の口から手を離すと金魚が空気を求めて口をパクパクさせるのと同じように必死に空気を求めていた。
 そんな中、道場の中から龍子の声が聞こえてきた。

「楠木!! 仲間が成長していく中でお前はどうして最後の最後で諦めるんだ? 仲間を信じられないのか?」
「……」
「金井を見てみろ!! あの泣き虫がお前に真っ向から向かっていく勇気を見せた!! 越後を見てみろ!! 自分の殻を破り捨てて後輩と共に再び歩んでいくと決めた!! 永原を見てみろ!! 狭い視野を広げて仲間を頼る事を覚えた!! 富沢を見てみろ!! 大会に出場できなくても腐る事無くお前達の補佐に周り、その合間に六角から技術を盗もうとしている!! それにひきかえお前はなんだ!? 少しは成長しているのだろうが最後の最後でどうしてあと一歩が踏み出せないんだ!?」
 龍子が叫ぶ。我が子の不甲斐なさに憤ると同時に自分の未熟さを呪う声のようにも聞こえた。

「龍子先輩……」
「悠里……」
 龍子の声を聞き、楠木の姿を見つめる越後と永原は言葉に詰まる。
 それは自分達全員を見守ってくれていた龍子への感謝の気持ちと楠木の悩みに気付いてやれなかった自分達の情けなさに。
 そんな越後たちの想いを酌んだのかのように楠木は龍子へ気持ちをぶつけた。

「そ、そんなの分かってますよ!! でも、でもどう頼ったらいいのか分からないんです!! 二度と親友を傷つけたくないんです!! 私はずっとこの団体でプロレスをしたいんです!! だから、ラリアットに代わる必殺技、ウインドミルを作ったんです!! 決め技を出すのが怖いレスラーなんてどうしようもないのはわかってますよ!! でも、でも、馬鹿だって言われてもいい、ここに居たいんですよ!!」
 楠木がはじめてもらした本音だった。
 そして、その言葉に違和感を感じる越後だが、その違和感を解いたのは誰でもない隣に居た永原とリング上の龍子だった。
「悠里……まだ、気にしてたんだ」
「なに!?」
 越後が振り向くと同時に中からも似たような言葉が聞こえてきた。
「楠木、それは永原のことか?」
「!? ど、どうしてそれを……」
「そんなことよりも永原がジャーマンに拘る理由の一つを知ってるか?」
「ちづるの拘る理由?」
「ああ。あの馬鹿が好きだとか格好いいとか色んな理由は省け。それ以外でだ」
「……」
「毎日毎日、飽きもせず首ブリッジばっかりしてる馬鹿の真剣な表情を見たことがあるか? ないだろう? あいつは階段から落ちたと私や上原さんが信じるはずもない理由で首を痛めてから前にもまして首を鍛えてる事に気付いたか?」
「……」
「お前が悲劇のヒロイン気取りで生きている間、あいつはずっとアピールしてたんだよ! 『もう首はなんともないし、これからも大丈夫』とな。試合でもジャーマンは半分以上は自分が好きでやってる馬鹿だが、もう半分はお前に見せてたんだよ!!」
 龍子は珍しく饒舌だった。

「おい、永原本当か今の話?」
 越後が永原の両肩を掴み揺さぶりながら問う。
「……本当ですよ」
「馬鹿野郎!! なんでその時正直に言わなかったんだ!! 楠木の奴、完全にイップスの症状じゃないか!! 優しさとかじゃない病気なんだよ!!」
 越後が永原の襟首を掴み激昂する。恐らくは中にも筒抜けだっただろう。
「そ、そんなの言える分けないじゃないですか!! 悠里は悪くない!! あたしの受身が下手くそだったんだ!! でも、こういうのって技をかけた方が悪者になっちゃうじゃないですか!! そんなの嫌だったんですよ!! あたしのせいで親友が、悠里が悪者になるなんて!!」
 永原も負けじと言い返す。永原も楠木に負い目を感じていたのだ。

「楠木……お前には義務がある。怖さを乗り越えてその向こうにたどり着く義務がある。魅せてみろ!! 私が教えた全てのものを昇華させ、お前だけが辿り着けるその高みを!!」
「……う……ぅ……」
「お前の全てを受けきってやる……さあ、打って来い……悠里」
 両手を大きく広げて笑みを浮かべる龍子の声は優しく、全てを包み込む深みのあるものになっていた。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!」

 楠木は背後のロープへ走りこみその反動を最大限に利用して龍子に向かって飛び込んでいく。
 振りかぶるのは左腕。
 全てを賭けて全てを振り切る覚悟で楠木は繰り出す。例え、それが未完成のユーリスターハンマーの延長線上にあったとしても、楠木が今があるのもこの技の為、ならば、今を越えるにはこの技しかありえない。

 ユーリスターノヴァ

 狙うは相手の眉間。
 左腕のラリアットは、ただただ振りぬくことだけに特化している為に右腕を遥かに凌駕するスピードと威力を持っている。
 相手に受身の技量が伴わなければ、頸部への負荷は尋常でないものになる。
 永原が喰らったときよりも、楠木はプロレスラーとして成長しているのだ。その威力も格段に上がっている。
 その楠木を育てたのがサンダー龍子なのだ。

(この私が悠里、お前を呪縛から解き放ってやる……永原、お前の呪縛もな……見ていろ)

 今まで、煌々と輝いていた月明かりが不意にその輝きを失った。
 小さな暗雲が月を覆い隠したのだ。
 その直前に鈍い打撃音が響き、数瞬、遅れてマットに何かかが叩きつけられる音が道場に響いた。

 そして、小さな雲が散り散りになり、銀月が再びその神々しい明かりを取り戻した。
 リング上には左腕を振り切った状態で佇む楠木とその背後にうつ伏せに倒れたままの龍子がいた。
 ラリアットを喰らって、うつ伏せに倒れるという事は体が宙で回転したことを意味していた。
 軽量級の選手の受けならば理解もできるが、受けたのはヘビー級のサンダー龍子なのだ。

「龍子先輩!!」
「悠里!!」
 越後と永原が只ならぬ様子に飛び込んでいく。
「……寮長?……ちづる?……私、私……」
 楠木は目に涙をためて今にも泣き出しそうになっていた。
「悠里、だ、大丈夫だよ。私でも起き上がったんだよ?」
「でも……」
「楠木、心配するな……龍子先輩は大丈夫だ」
 越後が龍子の様子を確かめると安心させるように言った。
 同時に龍子が目を覚ましたようで、越後の言葉に続く。
「っ痛ぅ……効いたぞ。久々に一瞬記憶が飛んだぞ」
 首を前後左右に動かしながら何事も無かったかのように立ち上がる龍子。
「龍子さん!?」
「おいおい、悠里。幽霊でも見たような顔をどうにかしろよ。いくらお前でも私に怪我させるなんて真似は10年早いな」
 龍子はポンッと楠木の頭に手をやり、くしゃくしゃっと撫でた。
「結構、いい技だぞ。気にせずに使え。いや、思い切り使わないほうが危険な技になるな……心して全力で使え。しのぶ、ちょいと顔貸せ」
「は、はい」
 急に声をかけられた越後がリングを降りた龍子の後を追う。
「悠里、ちょうどいい機会だ。そこのジャーマン馬鹿と心行くまでケリをつけておけ。いいな?」
「は、はい!! ありがとうございました!!」
 龍子の背に頭を下げる悠里。その横でちょっとふてくされる永原が居たが、目が笑っていたのでポーズだけだろう。


――道場外

「……しのぶ……悪い肩貸してくれ……」
「龍子先輩!? もしかして……」
「馬鹿言うな。ちょっと急いでおきたんで眩暈がするんだよ」
「すいません。余計な心配でした」
「いや……ありがとよ」
 そういって龍子は越後の肩に体を預けて、自室へと向かうのだった。

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No title

ここからが勝負ですね。私も非常に楽しみです。
そして、無理なお願いをしてしまい、申し訳ありませんでした。本当に感謝しています。
例のモノは来週末にUPの予定です。

Dolphinさんへ

> そして、無理なお願いをしてしまい、申し訳ありませんでした。本当に感謝しています。
いえいえー大丈夫ですよー。

> 例のモノは来週末にUPの予定です。
楽しみにしていますー
まったりとプレイ中・・・ではない
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誰も読んでないと思うけど、恋姫話は現在↑のところで書いてます。無謀もいいとこですが、、まあいけるとこまで行くぜって感じで。

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