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『エンジェルカップ』11日目 第六試合

「相変わらず地味ですわね」
 前回と同じく山奥の体育館での開催にボヤくフレイア鏡。
 彼女にしてみれば、消化試合の一戦でメインに据えられたところでやる気など起きる筈もなかった。


「……」
 楠木はいつにもまして緊張した様子で、控え室に入ってから一言も言葉を発していなかった。
 仲間達は先に試合がある金井のサポートに行ってしまっているが、一人だけ楠木をぼやーっと見つめている人間がいた。
「リラックスしてやればいいんじゃないのかい」
 そう言って声をかけてきたのは、臨時コーチの六角。
「……そうはいきません。社長や龍子さん、コーチの恩に報いる為にも不甲斐ないことは出来ませんから」
 ようやく発した言葉が、ガチガチの考えに六角は大げさに溜息をついてみせる。
「はああぁぁ……悠里のそういうところが良い所だとは思うけどさ、悪いところでもあるんだよ」
「……分かってます。融通が利かないのは承知してます」
「違う、違うんだよなあ。まあ、あたしも人の事はあまり言えないけどさ、誰かのために頑張るって違うと思うんだよね」
「……」
「誰かに憧れる事や仲間を思いやる事も確かに大事だよ。でも、それは自分が楽しめてこそじゃないのかな? 相手だって自分のためにって苦しい思いをしている仲間を見て嬉しいって思えるかね?」
「それは……」
「大好きなプロレスなんだろう? だったら、細かい事は気にしないでおもいっきりぶつかって、楠木悠里を体現してくればいい」
 六角は言うだけ言って、控え室を出ようと立ち上がる。
「ありがとうございます……」
 楠木は六角の背中に向かって礼を言った。
 届いていたはずだが、六角は振り向きもせずにそのまま控え室を後にした。



 『エンジェルカップ』11日目 第六試合
  フレイア鏡(TNA)vs楠木悠里(龍刃道場)



 試合は予想以上に盛り上がりに欠けていた。
 体格差が無い以上、鏡は力押しをせずに少しずつ楠木をいたぶり始めていた。
 楠木が押せばその力を利用して、引かば鏡が仕掛けて、すぐにグラウンドに持ち込む為に試合は硬直。
 動くときは楠木がロープブレイクする時だけだから、初心者には楽しくないプロレスだった。
 それでも、ブーイングが飛ばないのは楠木が懸命に関節技に耐え、勝負を捨てずに何度も向かって行っていたからに他ならない。
 会場のあちらこちらから悠里コールが時折飛んでいく。


(決めにいってないからと分かっていても、面白くありませんわね……)
 鏡は一向に根を上げない楠木に苛立ちを感じていた。技術面や駆け引きでいえば、先の朝比奈の方が断然上なのは肌を合わせた時にわかった。
 だが、往生際の悪さは今まで対戦してきた中で苛立ちを覚えるほどに一番際立っていた。
「……あの目が気に入りませんわ」
 鏡は楠木の右腕に狙いを絞り始めた。
 これが試合が動くきっかけになった。
 集中的に攻められることになり、ダメージも深刻なものになったが、メリットも大きかった。
 攻められる場所が分かっていれば、気持ち的にも踏ん張りが利く、両足、左腕が自由になるという事はロープブレイクもしやすくなったのだ。


(コーチと特訓をしていなかったら、我慢できなかった)
 楠木はそっと胸中で思った。また、相手が鏡というのも幸いした。中森のような人間だったらすぐに終わっていただろう。
 鏡は相手が苦しむ姿を見て楽しむタイプだというのは金井戦を見ても明らかだったからだ。
「くっ!!」
 だが、技の痛みが軽減するわけでもないので、楠木は我慢を強いられる事になる。来ないかもしれない千載一遇のチャンスを信じて。
 右腕をとられるもなんとかロープブレイクに逃れる。
 額からは嫌な汗が止まらない。右腕など感じるのは痺れと痛みだけになっていた。
「がぁあっ!!」
 何度目のロープブレイクだろうか?
 立ち上がって向かっていくが、攻防を繰り返すうちに腕を取られ、引き倒されグラウンドに持ち込まれる。
 一方的な試合には変わりなかったが、少しずつだが、楠木がグラウンドに持ち込まれるまでの時間が長くなっていた。


「……チッ」
 鏡が珍しく舌打ちをする。何度目のロープブレイクなのだろうか?
 右腕に狙いを絞り、相手の必殺技を完全に潰しているにもかかわらず、楠木の目が死なないことに対しての苛立ち。
 また、スポンジが水を吸収するように関節技に対しての切り返しを身体が覚え始めている事への苛立ちもあった。
「貴女、何を待っているのかしら」
 鏡が不意をついてのスリーパーに楠木を捉えて、その耳元で囁く。
 完全に右腕と思っていた楠木は為す術なく、鏡の術中に嵌る。
「我慢していれば、チャンスが来るとでも思っているのかしら?」
「……くっ!!」
 囁きながら喉元を巻き込んだスラリとした腕が蛇のように締め付けてくる。
「この瞬間まで生きていられるのは、貴女の技量ではなく私の技量のお陰なのよ……本気で耐えられているとでも思っていたのかしら?」
「ぅぅぅあぁあぁあぁ」
 声にならない悲鳴を上げるが、レフリーからは死角になっており、静止がかからない。
 喉を潰しに掛かる鏡。
 目には妖しい光が灯っていた。
「さあ、貴女にはもう飽きまし――ギャッア!!」
 鏡が終わりを告げようとした気に、右目に衝撃を受けて悶絶する。
 完全に殺していたはずの楠木の右腕が鏡の顔面を打ったのだ。
「ヒューヒュー……」
 ようやく開放されて空気を求めて楠木の喉が鳴る。
 鏡が来ないといった千載一遇のチャンスが目の前に転がっていることに楠木は震えた。
 右腕はもう感覚がなく、ウインドミルのようなコントロールが必要な技もユーリスターハンマーのような一点突破の技も無理だと知った楠木の選んだ技は――。

 鏡の髪を引っつかみ、頭を股に抱え込むようにし、胴体をロックする。
 右腕が使えないので、左手で右手首を掴み、絞り込むように抱え込んだ。
 そして、そのまま一気に右肩に抱え上げようと鏡の体を振り上げた。
 
 変形のパワーボムだ。
 
 右腕が万全ならば、ラストライド系の師・龍子のプラズマサンダーボムや先輩越後のクロスアーム式のジャッジメントボムもいけたであろうに。
 ここにきて鏡の右腕殺しが、楠木の選択肢を減らしたのだ。
 いや、これが致命傷になったのだ。
「言いませんでしたか? チャンスなど来ないと」
 体が反転して抱え上げられようとしているのに、鏡は微笑んでいた。
 上体が頂点に達した時を狙って、肘を楠木の左手甲に打ち込んだのだ。

「ぐっ!!」

 楠木の左手のロックが甘くなった所で、抱え込んでいた腕を振り払い楠木の背面に着地する鏡。
 会場の全員が息を飲んだ。
 背中合わせのポジションが何を意味するのかを知っていたからだった。
 楠木は声を上げる間もなく腕をとられて、次の瞬間、マットに沈んでいた。

 絶対領域。アンプリティアーが全てを飲み込んだ瞬間だった。

 ピクリともしない楠木を鏡はつま先でひっくり返すと踏みつけてフォール。
 無常の3カウント。
 会場からは怒号と悲鳴が入り混じった歓声で満たされた。

「ふんっ! 最初から結果はわかっていましたのに今更何をいっているのかしら?」

 ライトに照らされた輝く銀髪をかきあげて、颯爽とリングを去っていく鏡。
 無人の野を行くが如く、快進撃を続ける彼女を止めるものはいるのだろうか……。

 ○フレイア鏡(21分5秒 アンプリティアー⇒踏みつけフォール)楠木悠里×

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