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『エンジェルカップ』5日目 第四試合

――越後しのぶの決意

 時間を少し遡る

 ベッドに寝転がって、越後しのぶは考えいた。
 試合は明日だというのに、眠れなかったからだ。

 考える事はいつも同じで結論も同じだと思っていた。
 眠る為に羊を数えるのと同じ事のはずだった。

 自分の役目は?
 自分の限界は?

 前者は言うまでもない。前途洋々たる若手の壁になり、彼女達の心を鍛える事。
 レスラーの本質は、頑健さ、カリスマ、腕力色々あるが、レスラーがレスラーたる由縁は心の強さ。
 どんな壁にぶつかっても、壊れない、挫けたとしても這い上がる強さが必要なのだと教わった。
 それを後輩に言葉ではなく、身を挺して伝えることだ。

 後者は、誰に言われてはいないが自分に華がないのは分かっているし、自分の長所は受けだ。
 これは、トップに必要なものではないと感じている。寧ろ、対戦相手を輝かせる為のもの。
 だから、自分の限界は中堅クラス。ベルトには届かない。

「……でも、社長は違うと言った。今までそんなことを口にしたことがなかったのに、何故?」

 声に出して呟いて違和感を感じた。
 社長はいつだって私達のことを考えてくれていて、それは口に出されなくても分かっていたつもりだったし今までは問題がなかった。
 それが、今頃、どうして社長は口に出したのだろう?
 社長の為、団体の為、後輩の為、自分では全て正しいと思ってやってきたし、何の不満もなかった。
 よくやってくれていると褒められる事はあっても、昔ほど怒られることはなくなった。

 何故?

『……自分で気付かないといけないこともある。越後もそう思ったから何も言ってないのだろう?』
『はい。まあ、中には1から教えないといけない奴もいますが』

 先日のやり取りが頭によぎった。
 なんてことはない。出来の悪いでも可愛い後輩の永原の事でのやり取りだ。
 でも、この後、社長は口にしたんだ。

『私も龍子もしのぶを教育係と見てないぞ。私達を超えてくれると期待してるんだがな……今回がそのステップになればと思ってる』

 慰め? いや、社長はそんなことを言う人じゃない。
 恐らく本気で言ってくれた。
 1から教えないといけない奴と永原を称した自分が情けない。
 社長の心をわかってなかった。今回の大会に自分――越後しのぶ――を参加させたのは、永原のお目付け役なんかじゃない。
 足りないもの、忘れたものを取り戻して来いという社長達の親心だったんだ。

「……情けないな……本当に情けない……上が眩しすぎて見続けることを勝手に諦めて、勝手に自分の枠をつくって、自己満足していた。それでも自分で気付くまで待ってもらっていたのに、結局、言わせてしまった……」

 越後しのぶが入団した時にいった台詞はなんだった?

『ブレード上原さん! サンダー龍子さん! 自分はアンタ達を越えてみせる!!』

 それが今じゃ、若手の壁と自負している。おかしくて涙が出そうだ。
 だが、また走り出せと社長が言ってくれた。周回遅れもいいところだが、諦めるには、まだ早すぎる。
 かといって、今の自分も結構好きになっている。永原達の面倒を見るのが楽しいのだ。

「……なら、結論は一つしかない。一緒に走りだせばいい。永原の不安を取り除くのは私にしか出来ないことだ」

 そう考えると急に頭の靄が晴れ、気持ちよくなった。
 いつの間にか眠りに落ちた。


――永原ちづるの不安

 入場直前、あたしは考えていた。
 なんで、初戦は負けたんだろうって。

 ジャーマンに拘ったから?

 そんなことも一瞬考えたし、あちこちで記事にもされた。
 でも、あたしからジャーマンを取ったら何が残るんだって。
 レイほど器用に何でもこなせる訳じゃない、美加ほど可愛くもない、悠里ほど格好良くもない。
 あたしがこの世界で生き残る為には、他には誰も真似できない事が必要なんだ。

『ちづるのブリッジは綺麗だな』

 社長であり、国内トップクラスのブレード上原さんから褒められた時、あたしはコレだって思った。
 借りられる限りのビデオを見た。試合でも練習でも盗めるものがあれば我武者羅に取り入れた。

『ちづる、不器用だろ。私と似てるんだよな。投げ、一つに絞ってみたらどうだ?』

 練習の鬼、サンダー龍子さんからもアドバイスをもらえた。あの人がお世辞でも似てるって言ってくれたことがどれほど励みになっただろう。
 毎日毎日、ブリッジばかり。首を鍛えておかないと大怪我の元。『練習は裏切らない』龍子さんの言葉だ。元々は上原さんが龍子さんに贈った言葉らしい。
 そんな系譜にあたしが入っていいのだろうか?

『永原、お前はどうしてそんなにジャーマンに拘るんだ?』
『そ、それは……』
『それは?』
『あたしにはジャーマンしかないと思うし、ジャーマンだったら誰にも負けませんから』
『そうか、なら頑張るんだぞ。応援してやる』

 寮長の越後しのぶさん。最初は偏った練習はするなと怒っていたけど、あのやり取りがあってからは何も言わなくなった。
 いや、基礎練習は怠るなって耳にたこが出来るくらい言われるけれど、ジャーマンの練習をしても何も言われなくなった。
 むしろ、ここが悪いとかここが良いとかアドバイスをくれることのほうが多くなった。
 若手同士だと怪我しやすかいからと練習相手を買って出てくれることもしばしばだった。

 だから、あたしは思うんだ。
 負けたのはジャーマンが悪いんじゃない。使い手のあたしが未熟なんだと。
 スポット参戦のビューティ市ヶ谷さんを見て思うのだ。
 あの人の凄い所は、才能なんかじゃなくてあの自信だと感じる。

『クラッチが甘いですわね』

 一度、手合わせした時に言われた。

『自信のない技など百億回練習したところで意味などありませんわ!』

 返されることを恐れていては駄目。どんな状況だろうとどんな相手だろうと投げ抜くという気迫が必要だと教えてくれた。
 後々、知ったのだけど、市ヶ谷さんは人に物を教えるのが嫌いだと。それが、何故、あたしには指導してくれたのか?
 上原さんがこっそり教えてくれたのだが、あたしを気に入ったらしい。ジャーマン一つで世界をとるという馬鹿が気になったのだとか。

「永原……」

 いろんな人に支えられてあたしはここまで来た。
 でも、それが無駄になるかもしれないことが怖い。

「永原!!」
「はいっ!!」
 寮長だ。いつのまに横に来てたんだろう。
「永原、ぼーっとするな。初戦のことは忘れろ。あれは私のせいだ。お前は悪くない」
 寮長は庇ってくれている。でも、あたしは聞こえたんだ。あの時、寮長の声が。
 でも、あたしはいけるって思って、その声を無視した。あたしが悪いんだ。
「いいか、永原。今日の相手は、はっきりしている。司令塔の内田、戦闘要員の上戸だ。今日の試合で私がいいというまでジャーマンは禁止だ。いいな」
 え? どうして? あたしが前回失敗したから?
「上戸は前回の試合から考えても猪。曲者は内田でこちらの方が要注意だ。基本、内田はお前が抑えるんだ」
 だったら、寮長の方が向いてるよね? どうしてあたしなの?
「おい、聞いているのか!? おい、永原!!」
「は、はい。聞いてるよ」
「だったら、言ってみろ」
「えっと、気をつけるのが内田さんって人で、あたしが抑える?」
「そうだ。相手はお前がグラウンドが苦手だと知っている」
「う、うん」
「だからこそ、そこに付け入る隙もある。そして、今日の一番重要なことをいうぞ」
「う、うん」
「今日は、絶対にお前のジャーマンで勝つ! これは絶対にだ!」
「でも、前はそれで負けちゃったし……相手も対策を練ってくるんじゃ……」
 そんな弱気になっている情けないあたしを怒ることなく、寮長はあたしの両肩を掴み目を見つめながら力強く言ってきた。
「確かにそうだろ。でもな、あいつらはお前の本当の速さを知らない。前回は私が声をかけたせいでお前の持ち味を殺してしまった。今回はそれを逆手にとる」
 速さ? あたしは速くないよ。レイや美加の方がすばしっこいもん。
「いいか、上戸は私が引き受けるし、何かあればすぐに代われ。でもジャーマンは私がいいと言うまで使うなよ? いいな」
 あたし……あたしは……
「永原!! 聞こえてるのか!? いくぞ!!」
「あ、は、はい」
 あたしは、寮長のあとについてリングに向かっていった。


 そんな2人を見つめる影が2つ。
「レイ、ちづる空元気だったよね」
「そうね、私達に心配かけたくないんだと思う」
「大丈夫かな~」
「寮長がついてるから、怪我とかはしないと思うけど……」
「悠里も元気ないしさ、どうしようか?」
「美加、あんたは大丈夫なわけ?」
「うん。レイやちづる、悠里が傍に居てくれてるって知ってるから頑張れるの」
「ちづるも悠里も溜め込むタイプだからな……」
 越後と永原を見送る富沢と金井だった。


『エンジェルカップ』5日目 第四試合
越後しのぶ(龍刃道場) vs マッキー上戸(闘京女子プロレス)
永原ちづる(龍刃道場)    ラッキー内田(闘京女子プロレス)



 試合は表向き越後が想定した通りの戦いになっていた。
 内田と上戸が即席コンビとは思えない巧みなタッチワークを見せて、越後を一方的に攻め込んでいたのだ。
「おらぁ!!」
 力任せのラリアットを越後のガードの上から叩き込む
「くぅ……馬鹿力め」
 踏ん張りきれずに吹き飛ぶがガードを固めていたのでダメージは小さい。
「上戸! しゃがんで!」
 上戸の大きな体をブラインドにした攻撃だ。不意に上戸がしゃがむとその影から内田のフライングニールキックがカッ飛んできた。
 起き上がりざまの一撃に、越後のガードが間に合わずまともに喰らってしまう。
 越後はロープ際まで吹き飛んで、ロープにもたれ掛る様にダウン。
「……ハァハァ……思った以上にキツイな……」
 すでに試合開始から15分を過ぎようとしていたが、試合は内田&上戸組が完全に掌握していた。
 初戦ではそれなりの連携をみせていた越後&永原組が今日はその面影が無い。
 内田は試合開始時はいぶかしんでいたが、永原の様子を見続けて初戦の敗因が原因と判断した。
 上戸には打撃を中心にさせて、自分は足攻め。これが効いたのか、永原の動きは見る見るうちに鈍くなった。
 そして、タッチワークを駆使して越後を集中攻撃する選択をした。永原が出てくれば、タッチを与えるスキをみせ交替を促した。
 内田の判断は的確だった。
 永原を攻めていても越後が要所要所でカットに入るので流れがつかめなかったが、越後を集中攻撃してからはパートナー永原のカットがまともに機能していないので試合の主導権を握れたのだから。

 寮長がピンチだ……。
 でも、出ていってもジャーマン使えなし、きっと、あたしが出ても邪魔になるだけ。
 寮長ならきっと1人でも勝てる。寮長は強いから。

「おっしゃおらぁぁぁ!!」
 ダウンしている越後の髪を掴み引き起こすと力任せに今度はニーリフトをぶち込む上戸。
 技の一つ一つが荒く精度が低いが、その分重みがあった。
「ごほっ……」
「ほら、もう一発!!」
「ごほっ」
「とどめだ!!」
 上戸の大振りになった膝を体を捻ってかわすと、つかまれていた髪を振り払い、ヘッドバッドを叩き込む。
「ぎゃっ!!」
 バランスを崩していた上戸は大の字に倒れるが、すぐさま起き上がろうとしてしまった。
 これが、越後のサッカーボールキックの標的となり、胸板に強烈な一撃を打ち込まれる。
「がはっ」
 越後はすぐさま標的を内田に変更すると逆水平を叩き込む。
 地味な攻防だが、基本に忠実で鋭い攻撃は流れを呼び込むには十分だった。
 内田の掌底で対応するが、ここでは越後に一日の長があった。
 焦って繰り出してきた内田の掌底をいなして、脇固めに捉える。
「きゃっ!」
 ギリギリと腕を締め上げる越後に、何とか体をずらしながらロープへ逃げる内田。
 上戸はまだ咳き込んだままダウンしており、内田はカットが期待できない。
「くっ……」
「逃がすか!」
 グラウンドでの攻防が熾烈を極める中、越後の背後で上戸がフラフラと立ち上がる。


 あ、寮長、あぶない……
 ここはでていったほうがいいのかな……
 でも、今度失敗したら、あたしの居場所がなくなっちゃう


「……くそっ……(ん?)」
 内田は必死にもがくが越後の極めが思いのほか綺麗に決まっており脱出は困難に思われたのだが、ふいに越後の背後に気配を感じた。
「タップしたらどうだ?」
「誰が! 私達は貴女ほど消耗していない!」
 内田は越後の気を引く為に、気力を振り絞って脱出を図る。
 越後も何か変だとは思いつつも技を解くわけにもいかず、腕を絞りにいった。
 上戸がゆっくりと越後の背後に迫ってくる。


 どうしよう……
 カットしに出なくちゃ……
 でも、ジャーマンはまだ使っちゃ駄目だよね……
 えっと、えっと……
 

「ちょっと!! ちづる! あんた何やってんのよ!!」
「ちづる~、ふぁいとぉー」
「ちづる! 負けるな!」
 後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
 振り向いて確かめるまでもない。
 同期の3人の声だ。レイに美加、悠里。美加は試合が終わったばかり、悠里は次に試合があるのに自分の応援をしてくれている。

 みんな……
 あたし、ホント、なにやってるんだろ?
 ジャーマンに拘ってどうするんだ……これはタッグの試合なんだ
 相棒を信じて、相棒の背中を守らなくてどうするんだ?
 
「寮長ぉぉぉ!!」
 永原が叫びながらコーナーを飛び出した。
「馬鹿!! 試合中は名前を呼べとあれほど言ってるだろ!!」
 永原の叫びに事の次第を察知した越後が毒づきながらも間髪入れずに技を解き内田から離れる。
 それと同時に永原が上戸の背後からショルダータックルをブチかまし、上戸と永原がもつれて倒れこんだ。
「うぉっ!?」
「きゃっ!」
「う~~」
 見事に内田の上に積み重なる永原と上戸。
「ちょっと、何やってるのよ、上戸!! 私が気を引いていたのに奇襲もできないの!?」
「あいててて。う、うるせぇよ!! 助けてやろうとしたのに文句言いやがって!!」
 仲間割れ直前の内田と上戸を越後は肩で息をしながら永原に手を差し伸べる。
「永原、ナイスカットだ」
「は、はいっ」
 永原の吹っ切れた表情を見て、越後は周囲を見渡すと花道の奥に富沢達三人の姿を見つけた。
(成程な……最後の一押しは同期か……なら、喝を入れるのが私の役目だな)
「でもな、もう少し考えて技をかけろ! 一つ間違えば私も巻き込まれただろうが!」

 ゴチン

「あいたー! うぅ~。何も殴らなくても……」
「お前は言ってもすぐに忘れるだろう? だから体に覚えさせるんだ!」
「うぅ。そりゃそうですけど……」
 越後は永原の成長を喜んだ。タッグで相棒の言葉を信じ、相棒の背中を守れるようになった後輩。
 あとは、初戦のトラウマを取り除いてやるだけだと、悲鳴を上げる体に鞭打って相棒に声をかけた。
「永原!! 来い!! これから盛り返すぞ!!」
「はいっ!!」
 ここが正念場だと越後の経験と勘が告げていた。
 息もつかせぬ連続攻撃、相手の連携を分断しての集中砲火。 
 今まで押されっぱなしだった鬱憤を晴らすかのように、劣勢を跳ね返そうとする越後&永原組。

 オリジナルの連携など皆無だが、徹底された基本技はある種の芸術のように美しく冴え渡る。
 派手さはないが、基本技の一つ一つに説得力があった。それは、越後、永原の愚直さがそうさせたのだろう。
 何千、何万と同じ事の繰り返し。だからこそ、相手の呼吸が自然と分かるのだろう。

 だが、試合の流れはそう簡単に覆らない。

 越後が仕掛けた策は功を奏し、永原の成長に繋がった。
 その為に支払った代償はあまりにも大きく、元気一杯の永原が戦線に加わっても一時的なカンフル剤にしかならなかった。

「上戸!! そっち押さえておいて!!」
 内田は押されながらも状況を的確に把握し、ターゲットを越後に絞りアンクルホールドに捉えていた。
「残念ね、これで終わりよ」
「くっ……」
 前半に積み重ねたダメージに重ねるようにしつこく狙い続けた足。
 永原の勢いを生かしきれなかったのも越後の動きが目に見えて鈍くなっていたからに他ならない。
「舐められたものね。公式戦でパートナーの成長を促すとはね。それで勝てるとでも思っていたの!?」
 極めた足を更に絞り上げる内田。
「がぁぁぁぁぁぁ!!」
「ギブアップしないと大変なことになるわよ」
 ロープ際だが、あと一歩近づかなければ届かない位置。内田も越後もその距離は届かないと感じていた。
 レフリーが越後を覗き込み確認するが、声にならない悲鳴とともに首を横に振る。
「……っ」
「カットは期待できないわよ」
「……な、永原は来る……」
(なんなのよ……上戸が押さえてるのわかってるでしょ?)

「おらぁっ!!」
「お返しっ!!」
 上戸は永原を押さえるべく真っ向からぶつかっていた。
 お互いが分かりやすく、かわしてどうこうという性格でないことがかみ合った。
 逆水平の打ち合いで一歩も譲らない。
「いい加減に諦めろ!!」
「諦めない!! 絶対に!」
 少し前の永原なら上戸にトコトン付き合っていただろう。だが、自分の意地よりも相棒の救出が頭にある永原はある選択肢を選んだ。
「くたばれぇ!!」
 ヒートアップした上戸の逆水平を下がってかわすと一気に間合いを詰めてブレーンバスターの体勢に入る。
「ブン投げるっ!!」
「そうはいくかって!!」
 上戸を持ち上げようとするが、懸命に踏ん張った上戸が堪えて反対に投げきろうと力を込める。
 会場も上戸も永原が踏ん張って投げの打ち合いになると思っていたのだが、アッサリと永原の体が持ち上がった。
「なっ!? ちっ! いけぇー!!」
 上戸はタイミングを狂わされたが、ここまできて止めるわけにもいかず滞空時間を短くして叩きつけることにした。
 万全ではないにしても上戸の長身から繰り出されるブレーンバスターは十分な破壊力をもっており、しこたま背中を叩きつけられた永原は苦痛の表情を浮かべる。
「あだっ!!」
 この状況で一番驚いたのは内田だった。
「ちょっと、上戸!! 何してるのよ!!」
「何ってなんだよ?」
 内田の批難にまだ状況が読めない上戸。立ち位置でいえば、越後、内田、永原、上戸になってしまったのだ。
「くらえっ!!」
 内田に向けて延髄斬りを発射する永原。
「くっ……」
 とりあえず出しただけの技に当たるほど、無警戒ではなかった内田はなんなく避けることが出来た。
 しかし、越後を放さざるを得なくなっしまったのが痛かった。あと一歩で勝てたはずなのだ。
(信じられない……カットに来る為に技を喰らったっていうの?)
「内田ぁ、なに技を外してんだよ!!」
 上戸が何も考えず、内田を批難する。
「何よそれ! 信じられない! そんなことは相手を抑えてから言ってよね!」
「ちゃんと痛めつけたじゃねーかよ!」
 内田は少しイラついていた。試合の流れはまだ自分達が握っている。
 でも、前半ほど有利でもない。永原が思っていた以上にタッグとして機能し始めているからだ。
「じゃあ、お前が抑え役やればいいじゃねーか!」
 上戸が短気なのは知っていたし、それも計算にいれて動いていたつもりだったが、面と向かってそんなことを言われては、内田も我慢の限界だった。
「……いいわよ。貴女の好きにすればいいわ」
 そういって。ロープを潜ってエプロンへでる内田。

「越後さんは休んでいてください。あたしがやります!」
 内田が下がったのを受けて、永原が前に出る。越後は、下がっていろと言おうと思ったが永原を信じて任せることにした。
「……頼む。出来るだけこっちのコーナー付近で戦え、いいな」
「はいっ!!」
 元気よく返事した永原が上戸に向かって吶喊する。
 体力的はほぼ互角だが、ジャーマンを封印している永原は基点となる攻めがなく、選択肢の広い上戸に一方的に押されることになる。
「どうしたぁ! 威勢だけか!?」
 永原の髪を掴んで、1発2発とヘッドバッドを叩き込む。大雑把に見える上戸だが、終盤に来ても大技だけに頼らないいい攻めをしてくる。
 本人は感覚でしているのだが、隙をつきたい永原にとっては嫌な攻めだ。
「おらおらおらぁ!!」
「……っ!!」
 踏ん張る永原にも上戸は容赦なく襲い掛かる。
「ふっとべっ!!」
 渾身のニーリフトをぶち込み、永原を吹っ飛ばすと休ませる間もなくストレッチマフラーに捕らえる。
「あぁあぁっ!!」
 永原は完全に不意をつかれた。ここに及んで上戸が足攻めをしてくるなんて思っていなかったからだ。
 上戸のファイティングセンスには驚かされるばかりだ。
 それは、永原だけでなくコーナーいる越後も同じ思いだった。
「くそっ!!(単なる猪じゃないってことか……)」
 上戸へドロップキックを放ち、永原を解放する越後だったが……。
「なっ! しゃらくせえ!!」
 上戸を吹き飛ばす威力がなかったために、倒れずに踏ん張った上戸が動きの鈍い越後へ蹴りを入れようとする。
「越後さん転がって!!」
「なんだと!?」
 永原の指示に何の躊躇いもなく行動し、上戸の死角からの攻撃を避けた越後。
 上戸には信じられなかった。
「ふっとべ、上戸ぉ!!」
 越後が起き上がり様にかち上げ気味のショルダータックルを仕掛ける。
 まともに上戸にぶち当たるが、パワーでは上戸が有利な上に、ダメージの残る越後は本来の力を発揮できなかった。
 がっしりと受け止められて、ダブルアームスープレックスで投げ飛ばされ場外に転落する越後。
「甘いぜ!! くたばり損ないが! そこでゆっくり寝てろ!!」
 越後を投げ捨てた上戸は満身創痍の越後に邪魔されたのが余程我慢ならなかったか、場外の越後へ挑発のポーズをとり、無防備にも永原に背を向けてしまう。

「だめっ! 上戸、後ろ!!」
「永原ぁ!! 決めろぉ!!」

 越後の咆哮と内田の声が重なる。
 いや、正確には一瞬内田の方が速かったのだが、先ほどの越後、永原の関係とは違い掛けられた言葉を確認しようとした時間が明暗を分けたのだ。
「な――がはっ!!」
 なんだ?と上戸が後ろを振り向く前に、天地が反転していた。
 永原の人間橋が完成したのだ。
「なんなのよ……あの速さは……クラッチと投げが同時だなんて嘘でしょ……」
 内田の驚愕を他所に容赦ないカウントが始まった。
 
 1……

「嘘っ! ちょっと待っ――きゃっ!!」
 カットに入ろうと駆け出した内田がロープを潜った瞬間に引き倒される。越後が場外から内田の足を掴んでいたのだ。
「ちょっと離して!!」
「そうはいかないな。永原に華を持たせてやるのが私の役目だからな」

 2……

「上戸ぉ! 起きなさい!!」
 内田はパニックになり捕まれていない足で越後の腕を蹴って脱出しようとしたのだが、運悪く越後の目にヒットしてしまう。
「ギャァ!!」
「え!?」

 ス……
 会場が声援で揺れた。
 勝ったと騒ぐ地元ファン
 まだだとばかりに上戸コールする闘女ファン
 レフリーに注目が集まる。

「越後さん!!」
 越後のタダならぬ悲鳴に敏感に反応した永原は、ブリッジを解き、場外の越後へと駆け寄った。
「……そんなつもりじゃ……」
 内田は呆然とそれを見つめて、動けずにいた。
「越後さん! 越後さん!!」
 目を抑えて蹲る越後の傍で動揺を隠せない永原。
「痛っ……落ち着け、永原」
「でもでも……」
「いいから落ち着け! お前が騒いでいると余計に痛む」
「す、すいません……」
 普段の永原とは違う様子に流石の越後も心配になったのか、諭すように今の状況を確認する事にした。
「それで、ジャーマンで3つ取れたのか?」
「わ、わかりません……越後さんの悲鳴が聞こえたんで駆けつけました」
「!! 馬鹿っ!! ならまだ試合中じゃないか!! すぐリングに戻――」

 カンカンカーーーーン

 試合終了のゴングが鳴り響いた。
 試合終盤の大熱戦からは考えられないあっけない時間切れ引き分け。
 事故とはいえ、目に攻撃が入ってしまったことで闘う両者に動揺が走ってしまったことが原因だが、若い選手たちにそれを責めるのは酷ともいえた。
 観客もそれをわかっており、フルタイムを戦いきった両者に惜しみない拍手を送るのだった。

 △マッキー上戸 (  ドロー  ) 永原 ちづる△ 
  ラッキー内田 (30分時間切れ) 越後 しのぶ

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まったりとプレイ中・・・ではない
Web 恋姫†無想 張遼を育成中!
興行日程
09 | 2017/10 | 11
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プロフィールなのか?

上原 柊

Author:上原 柊
画像は、玉倉かほ様の了承を得て貼らせて頂いております。

胡蝶の夢

誰も読んでないと思うけど、恋姫話は現在↑のところで書いてます。無謀もいいとこですが、、まあいけるとこまで行くぜって感じで。

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