スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『エンジェルカップ』5日目 第五試合

 1敗1分
 試合をコントロールされての逆転負け
 試合をさせてもらえずに、両者リングアウトの引き分け

 楠木は落ち込んでいた。もともと余裕のある状況ではなかったが、勝利が無いことが更に楠木を焦らせていた。
 社長のブレード上原が目先の勝利だけを求めるはずがないのだが、こうまで勝てないと不安が大きくなる。
 
 カチャ……ン……

「……どうしよう……」
 控え室には楠木が一人。
 他の仲間は、越後の治療に付き添ってしまったし、上原も今回は見守る立場を崩していない。
 パイプ椅子に腰掛けてうな垂れるように床ばかり見つめていた楠木は控え室に人が入ってきた事に気付かなかった。
「……また……負けたら……」
「負けたら何だっていうんだ?」
「え!?」
 頭上から聞こえてきた声に驚いて顔を上げる。
 そこにはサンダー龍子がいた。
「……龍子……さん?」
「負けたら何だと聞いてるんだ。答えろ」
 龍子の声は怒気を孕んでいた。
「負けたら……団体の……看板に……」
 楠木は再び俯いて消え入りそうな声で返答をした。

 ゴチン!!

「~~~~~~~~~!!」
 前の試合の傷口を拳で殴られて、声にならない悲鳴をあげる。
「いいか。お前は全部負けたっていいんだ。やる事は唯一つ。一つ一つの技に魂を込めろ!!」
 龍子は楠木の両肩を掴み、俯く楠木を覗き込み励ました。
「……でも……」
「下を向くな。お前……悠里はやれる」
 龍子は片手を楠木の後頭部に回し自分の方へ引き寄せるとギュッと抱きしめた。
「……龍子さん」
「私は不器用だから、気の利いた事もしてやれないし、言ってもやれない。私が先輩にしてもらった事を後輩のお前達に一つ残らずしてやる事しかできない、許してくれ」

 コンコン

 控え室の扉がノックされる、試合の呼び出しだろう。
「試合時間だ……頑張ってこい」
「は、はいっ!!」
 楠木は少し吹っ切れたように微笑んだ。
 龍子は何も言わずに外に出た。それと入れ違いにスタッフが入っていった。
 外に出た龍子を待っていた人物が居た。
「やれやれ……龍子が意地張ってるから代わりにと思ったら本人がアッサリと出てきてるとはね……」
「う、上原さん!? いつから此処に?」
「聞きたいのか?」
「い、いえ、止めておきます」
 嫌な汗をかきながら首を横に振る龍子。
「……まあいい。それより、一つ聞きたいのだけれど?」
「なんですか?」
「私は龍子をあんな風に抱きしめてやった記憶がないのだが?」
「なっ!? あ、いや……あれは、その……上原先輩だったらあーしたかなーって思っただけですよ、マジで、ホントに!! だ、誰かにしてもらったらとか、そんなやましいことなんて無いですから!!」
 龍子は上原の追及にしどろもどろになり、入団したての少女のように真っ赤になった。
「ははは、冗談だよ龍子。昔に戻ったみたいで一瞬夢かと思ったよ。いいものを見せて貰った」
「う、上原さんっ!!」
「私もお前もそして悠里も同じなんだよ。悩んで、苦しんで、落ち込んで、また悩む。そんな時に誰かが力になってやる。それが私達のやり方さ。その役が誰か?なんて野暮な事は言わないさ。そうだろう?」
 上原は龍子の肩をポンと叩くと会場に向かおうと促した。
「……まったく……上原さんも人が悪い……」
 聞こえないように呟く龍子だが、キッチリ上原に届いていたようで。
「まあ、そう言うな。理沙子や葉月、果ては市ヶ谷に会長を相手にしてきたんだ。少しくらい大目に見てもらわないとな」
「もう!! わかりましたよ!! でも、皆の前では止めて下さいよ? 私にだってイメージってモノがあるんですから」
「わかってるよ。さあ、私達の自慢の後輩を応援しよう」
「はい」

『エンジェルカップ』5日目 第五試合
楠木悠里(龍刃道場) vs 小早川志保(月の王国女子プロレス)


 ワァァアアアアア

 会場が熱気に包まれる。
 それもそのはず、小早川と楠木が一進一退の攻防を繰り広げているのだ。パワー勝負で。
 誰が見ても無謀ともいえるぶつかり合いは会場のボルテージを引き上げていた。
 小早川のファイトスタイルが龍刃ファンの心を掴んだのだ。最初はちっちゃな体で無茶だと誰もが茶化した声援を送っていたのだが、それが時間が立つにつれてファンを引き込んでいったのだ。
 勿論、楠木が安易に逃げることなく真正面から受けてたったからでもある。

「闘牛士が避けることばかりじゃないって事を思い知らせてあげるよっ!!」
 ガンガン正面から突っ込んでくる小早川。スピードだけで言えばディアナにも匹敵するといえた。
「私も言わせてもらうよ。闘牛士が必ずしも狩る側だとは限らないっ!!」
 ディアナとの対戦が楠木の糧になっていた。スピードに目が慣れていたので、小早川の動きを見失う事はなく、最終的には真っ向勝負でくる小早川は組み易かった。
 低空タックルに来た小早川を押し潰すように捕獲した楠木。
「捕まえた!」
「く、くっそー!!」
 楠木を倒しきれないと脱出を図ろうとする小早川だが、自身の思い切りの良さが仇となり懐に抱え込まれるようになってはなす術が無かった。
 ジタバタと足掻くが、体重を掛けられて体力を消耗するばかりだった。
 外野から見れば、小早川が楠木の投げを踏ん張り続けているように映ったのだろう。小早川コールが巻き起こる。
(もう、信じてくれている人の期待を裏切るのは嫌だ!! 絶対に、絶対に私にやれることは全てやるんだ!!)
 楠木は小早川に圧力をかけるのをやめると一気に引っこ抜いてブレーンバスターの体勢に。
 ピンと伸びた体勢で止まる。
 おぉぉと歓声が沸き起こるほどの滞空時間を以ってリングに叩きつけた。
「ぐあっ!」
 小早川が腰を押さえて呻いているが、休憩なんてさせないとばかりにもう一度ブレーンバスターの体勢へ。
 またもや、投げきれない。
(え!?)
 楠木は驚きに目を見開いた。今度は圧力をかけずに連発する筈だったのだ。
 会場は小早川へ『投げ返せ』と声援があちらこちらから出てくる。
 どちらのホームか分からない状況だ。
「そう簡単にいかないよっ!!」
 小早川が吼える。
「こっち――」
『こっちこそ』と楠木が言い返すタイミングを見計らって小早川が渾身のブレンバスター返し。
 高速で切り返し、身長差が受身のタイミングを狂わせた。
「うっ……」
 小早川コールの大合唱。

「体格差なんて関係ないところ魅せてやる!!」

 楠木が起き上がるタイミングに合わせて、ロープの反動を使用して突っこんでいく。
 避ける時間もあったが、地元の声援をここまで奪われては楠木も負けてはいられない。
 弾丸と言っても過言でないフライングショルダータックルをこれまた真正面から受け……きるが、小早川を捕まえるまではいかない。

「まだまだぁ!!」

 楠木の腕から逃れた小早川は再びロープへ走る。1回、2回、3回折り返すたびにスピードが上がる。
「前か? 後ろか?」
 楠木は疾風のように駆け抜ける小早川の動きに迷い始めた。
 いくら非力とはいえ、あのスピードで繰り出す技ならば必殺の域へと到達できるのだから。
 この流れから背後からというのは考えにくかったのだが、小早川のスピードが楠木の注意を分散させることになった。
「いっけぇーーーーー!!」
 スピードの乗った側転からの弾丸エルボーが見事に炸裂するのだが、その勢いは止まらない。踏ん張った楠木を軸にくるりと背後に回るとバネの利いた跳躍で楠木の後頭部を掴むと全体重をかけてリングに叩きつけた。
 割れんばかりの小早川コール。
「どうだ!! みたか!!」
 綺麗にあまりにも綺麗に決まったが故の行動だったのか?
 それともアウェーを感じさせぬ大声援がそうさせたのか?
 すぐにフォールに行かないで観客の声援に応えるアピールをする小早川。
 そして、更なる小早川コールが巻き起こると、片手を突き上げてのアピールとともにコーナーへのぼった。
 得意技の一つでもあるダイビングヘッドバッドをトドメに使うつもりだった。事実、この技でオーガ朝比奈を破った。
「でっかい奴に、負けるもんか!!」
 飛び出す瞬間に背を向けた楠木がムクリと起き上がるのが目にはいったので、咄嗟の判断で飛びつきのフェイスクラッシャーに切りかえて飛んだ。

 ほんの1秒か2秒だった筈だが、会場の空気が一変する。
 小早川コールが一瞬にして掻き消えて悠里コールの大合唱。
 小早川にとっては長い長い時間だった。
 小早川はあれだけのダメージを食らわせたから、反撃など出来ないとタカをくくっていた。
 が、それはあくまでも自分の経験の範疇からの答えだと気付かされることになった。

 楠木悠里が“龍の後継者”といわれる訳。
 サンダー龍子の弟子というだけでそう呼ばれるのならば、いままで何人も居たはずだ。
 だが、楠木が初めてそういわれることになったのは何故か?

 それはタフネス。

 覚醒しつつある龍の魂。
 マタドールの剣は鋭く、激しいものだったが、未だ発展途上の小早川の剣はドラゴンスレイヤーにはなり得なかったか……

「小早川ぁー!!」
 振り向き様に飛んでくる小早川をラリアットで撃墜。
 胸板にラリアットの直撃を受けた小早川は風に舞う木の葉のように吹き飛んだ。
 運がいいのか悪いのか、空中で受けたことでくるりと回転しても着地までに時間があったので、受身は取ることが出来たが胸に受けた衝撃で呼吸が詰まってしまった。

「ごほっ、ごほごほ……」

 跪いて咳き込む小早川にダッシュしてくる楠木。

「これで決める!!」

 抱え込むように胴体をロックして一気に持ち上げ、小早川の体を一回転させてから立てた膝に落とした。
 その様子はまさしく大風車。楠木の現時点での必殺技、【ウインドミル】である。

 呻く小早川をそのままフォールしての3カウント。

 衝撃もさることながら、瞬時の回転でと上下移動でバランス感覚が麻痺するのは楠木の身長があっての為せる技だった。

「くっそぉー!! あと、ちょっとだったのに!!」
 マットを叩いて悔しがる小早川。
「次!!」
「え!? え、うん」
 突然、かけられた声に楠木は驚いて生返事を返してしまうが、小早川はお構いなし。
「決勝でもう一回やる!! その時は負けないからな!!」
 決勝トーナメントでの再戦を突きつけるとそのまま駆け出して帰っていく小早川
「あ、まだ、いきなり走ったら危な――」
「いったぁー」
 危ないと楠木が言うよりも早く、足がもつれ顔面から突っこんでこける小早川。
「べ、別に痛くなんかないぞ! 痛くないんだからな!! 絶対、決勝にこいよ! 次はあたしが勝つんだからな!!」
 絶対痛そうな転び方だったんだのだが、しつこいくらい再戦(と痛くないこと)をアピールして帰っていった小早川。よっぽど、悔しかったのだろう。
「うん。決勝にいけるか分からないけど、今日みたいな試合をしていくよ」
 楠木はそう呟くと、レフリーに手を取られて勝ち名乗りを受けた。

 嬉しい初勝利の瞬間だった。

 ○楠木悠里(14分12秒 ウインドミル⇒体固め)小早川志保×

コメントの投稿

非公開コメント

まったりとプレイ中・・・ではない
Web 恋姫†無想 張遼を育成中!
興行日程
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
プロフィールなのか?

上原 柊

Author:上原 柊
画像は、玉倉かほ様の了承を得て貼らせて頂いております。

胡蝶の夢

誰も読んでないと思うけど、恋姫話は現在↑のところで書いてます。無謀もいいとこですが、、まあいけるとこまで行くぜって感じで。

FC2カウンター
なにかあれば、コチラ
拍手する
検定
なんとなくやってみた。頑張った。
最新記事
最新コメント
リンク
なにわんGP楽しかったですねー
なにわんGP応援中!
ζ'ヮ')ζ<よみますよぉー
『4ページマンガ最前線』 | 最前線
カテゴリ
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
最新トラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。